2024年4月25日(木)

Wedge REPORT

2019年6月18日

手に職をつけて、貧困、虐待、犯罪の連鎖を断ち切ろう

 2004年にはじめて出所者を雇い、最初の5年間は厳しくしました。だけど、意味がないと気付いたんです。威圧して、怖がらせることはいくらでもできますよ。だけど、怒鳴ることで仕事の動機づけをしても、成長はしません。まして、彼らの多くは承認の欲求がものすごく強い。認められることに飢えているんです。家庭や学校では認められなかったんでしょうね。だから、私なりに細心の注意を払い、言葉をかけます。言葉は、難しい。日本語は、難しいですよ…(苦笑)。そこも学びました。

 5年前から、インドネシアからの技能実修生を受け入れています。現在、9人。日本語は必ずしも十分ではないところもあるのですが、全員が仕事をよくしますよ。各現場での評価は、すごく高い。この現実を見た時、言葉ではないんだなとあらためて思いました。行動で信用を得るのが、先なんですね。

 出所者から生い立ちを聞いていくと、親をはじめ、家族に恵まれていなかったように思えるんです。その親たちも、子どものころに同じような境遇だったんじゃないか、と感じました。その貧しい連鎖を断ち切れないか、と最近は考えているんです。たとえば、とび職のような職を身につけ、一人前になれば(前述したように)ここを独立し、社長にもなれるんですよ。家族を養えるだけの収入を得ることもできる。「手に職をつけて、貧困、虐待、犯罪の連鎖を断ち切ろう」を伝えたくて、全国の刑務所や少年院で講演をしています。

 そんな思いもあり、「NPO法人なんとかなる」を設立しました。設立前に何らかの形でご協力をいただこうと、300社以上の会社に面談を求め、説明をしてきました。児童養護施設の話には賛同していただける場合もあるのですが、少年院や刑務所の話をすると、一気に引き始める。露骨でした…(苦笑)。依然として、世間の出所者への目は厳しいものがあるんでしょうね。ありがたいことに、石坂産業さんのように即答で協力を申し出てくれた会社もありましたが…。

 最後に、これも言いたいです。私は、脳学者の養老孟司先生に大変にお世話になっています。ご著書『バカなおとなにならない脳』(イースト・プレス)を読んで感銘しましたから、全国の少年院(52か所)に1冊ずつ寄贈していただいたんです。この本は小中学校、高校生の児童や生徒から寄せられた質問に、養老先生がわかりやすく答えていきます。犯罪や殺人などの質問や回答もあるんです。少年院にいる少年、少女たちにもぜひ、読んでほしい。

 人は、時間が経てば変わるんですよ。寮の部屋を「ごみ屋敷」にする男子がいたのですが、7年目になり、ついに掃除機を使い、きれいにしていました。掃除機をかけるのに、7年…。今も、ここでがんばっています。どうか、彼らや彼女たちを長い目で、そしてそのようになった背景にも目を向けてあげてほしいですね。

脳学者の養老孟司さんとの撮影

【セリエコーポレーション】
https://www.facebook.com/masahiro.okamoto.9400
横須賀市三春町3-35-34
TEL:080-1055-2606

【NPO法人なんとかなる】
http://nan-toka-naru.net/
横須賀市馬堀町3-12-1
TEL:046-890-0177

※参考 
以下は、法務省のホームページから転載。
「無職の刑務所出所者等の再犯率は有職の者と比べ約4倍と高く(平成21年から平成25年)、刑務所出所者等の再犯防止のためには就労支援や雇用の確保がとても重要です。法務省では刑務所出所者等に対する就労支援を重要課題の一つとして位置付け、積極的な取組を行うことに併せて、刑務所出所者等を雇用してくださる協力雇用主を募集しています。」

  
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