世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年6月24日

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 トランプはEUを極端に毛嫌いしているが、一体いかなる理由によるのか?それは、大方の見るところ、「アメリカ第一主義」という利己的で独善的なスローガンをEUとの関係に投影させた産物ということになるのではないだろうか。

(Bumblee_Dee/Lara2017/Elena Brovko/iStock)

 これに関して、米ハドソン研究所のウォルター・ラッセル・ミード(Walter Russell Mead)による論説‘Trump’s Case Against Europe’(6月3日ウォール・ストリート・ジャーナル紙掲載)は、トランプのEU嫌いの理由を下記の5つに整理しており、興味深い。

1.    EUのような多数国機関は国民国家よりも弱体で非効果的であり、従ってEUの如きは西側同盟全体を弱体化させたという見方がある。これによれば、国民国家間の協力は望ましいが、それを過度に制度化するのは官僚的政治、煩雑な意思決定過程を招くので、誤りである。

2.    EUはあまりにドイツ的である。つまり、経済的にはタカ派(財政均衡重視)に過ぎ、国防についてはハト派に過ぎる(NATOへのコミットメントを守らない等)。

3.    EUはあまりにリベラルである。米国で言うリベラルとは、経済については余りに国家介入的、社会問題については余りに進歩的ということである。

4.    EUは、死刑、気候変動、グローバル・ガバナンス、ジェンダーの問題などについて、自らの好みの政策を輸出しようとしている。米国のジャクソン主義のポピュリストは、如何なる形のグローバル・ガバナンスにも深い疑念を有するし、EUがこだわる多くの主義主張-LGBT、パレスティナ国家、二酸化炭素-も好みに合わない。

5.    トランプは、貿易問題(EUが最も効果的に動いているのはこの分野である)の故にEUを好まない。トランプは、EUは貿易交渉で米国の力を制限し米国の梃を弱めるための道具だと信じている。

 筆者Walter Russell Meadはかつて、‘The Jacksonian Revolt’という論文(Foreign Affairs、2017年3/4月号)に「トランプが信奉する米国に特徴的なポピュリズムは最初のポピュリストの大統領であるアンドリュー・ジャクソンの思想と文化に根差している。トランプの支持層を成すジャクソン主義者にとって、米国とは世界的なミッションを帯びた国ではない。それはアメリカ人の国民国家であり、その主たる任務は国内、即ち、個々のアメリカ市民の平等と尊厳に対するコミットメントにある」との趣旨を書いたことがある。

 筆者が指摘する上記の5つの要素は、成程と思わせるものである。トランプがBrexitをけしかけ、ドイツに無遠慮に圧力をかけ、イラン核合意を潰すためにEU+3に強硬な態度を維持する理由も或る程度は理解出来る。しかし、指摘されていることは、特に新しいことではなく、米国だけが問題視することでもなく、かねてEUについて各国で共有されている見解を含んでいる。

 もちろん、EUが上記のような批判に納得する筈はない。筆者は「トランプが体現するジャクソン主義のポピュリズムは如何なる形であれグローバル・ガバナンスに疑念を有する。政府間協力はまだしもEUのような超国家機構は西側同盟全体を弱体化させるというのがその見解だ」と論ずる。しかし、通商政策であれ、競争政策であれ、EUが排他的権限を握る超国家的な仕組みを採用したのには理由がある、とEUは言うであろう。その結果、EUが貿易交渉で強い立場に立ち得るといって、あるいはEUが競争法違反の廉でアップルやアマゾンに追徴課税することになったからといって、非難はお門違いということになろう。

 欧州統合の推進という戦後米国が一貫して追求して来た政策をトランプのEU嫌いが激しく揺すぶっている。しかし、トランプがEUを嫌う理由は分かるとして、具体的な対応はどうすればいいのか、妙案はないのが実情ではないかと思われる。ただ、筆者も言う通り、「欧州にとってトランプに対する最良の回答はトランプと口論することではなく、成功することである」ということだけは間違いないであろう。

  
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