田部康喜のTV読本

2019年6月20日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

(PaulMaguire / iStock / Getty Images Plus)

 BSプレミアム「長閑(のどか)の庭」は、ドイツ文学の老教授・榊郁夫(田中泯)と、大学院生の朝比奈元子(橋本愛)との年齢41歳の差がある、男女の純愛の物語である。美しいセリフと、ふたりの心象風景を現すかのような湖や街々の背景が流れるように展開していく。まるで短編小説のようである。

「いつか素敵な庭でお茶を飲めれば」

 物語は大きな事件が起きるわけではない。小さな出来事が積み重ねられながら、榊(田中)と元子(橋本)の距離が徐々に縮まっていく。元子は、いつも黒を基調とした服を身に着けていることから、ドイツ語の黒をはしょって「シュバちゃん」と呼ばれている。「グリム童話」を研究している。

 担当教授の榊(田中)は、留学中のドイツでその学識が認められて、ドイツに残ることを勧められた過去がある。

 元子の夢は、洋館の広い芝生の庭に置かれた小さなテーブルで、好きな人と紅茶を飲むことである。榊の自宅に資料を届ける途中に、元子はそんな大きな洋館と庭を見つける。「長閑(のどか)の庭」のタイトルは、そんな憧れを表している。原作は、アキヤマ香作の同名のコミックである。

 第3回(6月16日)に至って、ふたりはそれぞれに対する恋と愛が急速に深まっていく。

 元子が榊の研究室を訪ねると、彼はこういうのだった。

 榊  「君の気持ちのことだが」

 元子 「はい」

 榊  「ありがとう、ただ、ありがとうとだけしかいえないのだが」

 元子 「ありがとうなんて」

 元子はうれしさにうつむくばかりだった。

 友人の院生の富岡樹里(中村ゆりか)は、元子が想いを寄せる相手の名前は知らないが、恋愛の進展がどうなっているかを尋ねると、元子はこういうのだった。

 「ありがとうって、いってもらえた。気持ちを認めてくれただけでも、うれしいことで。いつか素敵な庭でお茶を飲めれば、いいと考えていただけだったから」と。

 週末に、元子は榊の翻訳の下訳を手伝うために、榊の書斎にふたりでこもって作業を続ける。

 榊  「将来の方向性はあるのか?」

 元子 「フリーの翻訳になれればと思っています」

 榊  「学校が終わっても、人は勉強を続ける。それはなんのためかというと、自分の一生の価値を高めるためだ。楽しい、という言葉につきるかな。わたしは、小難しく、長く表現するのが悪い癖だ」

 元子 「先生のそこがいいところだと思います」

 榊  「いくつになっても、自分を肯定してもらうのはいいものだな」

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