オトナの教養 週末の一冊

2019年6月28日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

(claudenakagawa / iStock / Getty Images Plus)
質問1「現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?」
 A 20%
 B 40%
 C 60%

質問2「世界で最も多くの人が住んでいるのはどこでしょう?」
 A 低所得国
 B 中所得国
 C 高所得国

 本書の冒頭、このような「世界の事実に関する13問のクイズ」がある。貧困、教育、環境、エネルギー、人口問題など、現代の世界にまつわる質問だ。私もやってみた。自信満々に答えを書いたものの、答え合わせをすると、意外にも(!)間違いがいくつかある。

 著者が14カ国で1万2000人に行った調査では、地球温暖化に関する質問(正解率86%)を除けば、平均正解数は12問中2問だった。全問不正解がなんと15%もいた。

 そもそも3択なのだから、チンパンジーがランダムに答えても正解率は33%に近くなるはず。つまり12問中だいたい4問は正解する。「チンパンジーは適当にバナナを拾うだけで、高学歴の人たちに勝てる」というわけだ。

 しかも、人間は不正解の2つのうち、よりドラマチックなほうを選ぶ傾向が見られた。「ほとんどの人が、世界は実際よりも怖く、暴力的で、残酷だと考えているようだ」と、著者は語る。

 公衆衛生の専門家である著者は、ほとんどの人の知識不足の原因は「知識のアップデート」がされていないことにあると考え、アニメーション付きの動くチャートを手に、世界がどう変わったかを説明して歩いた。

 しかし、「いくら良い教材を使っても無駄骨に終わる」ことに気がついた。「聞き終わった途端に元の悲観的な考え方に戻ってしまう」のだ。

 2015年、ダボスの世界経済フォーラムで貧困、人口増、ワクチン接種率についての質問をしたときも、人口増やワクチン接種率についてはチンパンジー以下の正解率だった。 いつでも最新データにアクセスできる人たちでさえ、基本的な問題に答えられない。ということは、知識のアップデート不足が原因なのではない。

 なぜ、一般市民から高学歴の専門家までが、クイズでチンパンジーに負けるのか?

 その理由を解き明かしたのが本書である。

「ドラマチックすぎる世界の見方」が原因

 著者は、「訳者あとがき」によると、スウェーデンの医師で公衆衛生の専門家であり、TEDトークの人気スピーカーでもある。スウェーデンとインドで医学を学んだ後、モザンビークで医師として働き、「コンゾ」という神経病の原因を突き止めた。

 帰国後はカロリンスカ医科大学で研究と教育に励み、「事実に基づく世界の見方」を広めることに尽力した。残念ながら、本書の完成を待たずしてこの世を去った。

 著者によると、ネガティブで極端な答えを選ぶ人が多いのは、「ドラマチックすぎる世界の見方」が原因だ。よくいわれるような「悪徳メディア、プロパガンダ、フェイクニュース、低質な情報」のせいではない。「瞬時に何かを判断する本能と、ドラマチックな物語を求める本能が、『ドラマチックすぎる世界の見方』と、世界についての誤解を生んでいる」のである。

 そこで本書では、だれもが持っている「分断本能」「ネガティブ本能」「パターン化本能」「焦り本能」など10の本能を章ごとにわかりやすく説明し、どうしたらそれらの本能を抑えることができるのかを具体的に提示する。

 本能が引き起こしているとんでもない勘違いに気づくことが、事実に基づいて(ファクトフルに)世界を見ること(「ファクトフルネス」)につながる、というわけだ。

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