Wedge REPORT

2019年7月2日

»著者プロフィール
閉じる

樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

(AP/AFLO)

 トランプ米大統領と金正恩・朝鮮労働党委員長による板門店での〝サプライズ会談〟は、またしても世界を驚かせた。トランプ氏は〝政治ショー〟の天才かもしれない。肝心の会談の内容については、厳しい評価が少なくない。北朝鮮の核廃棄で何らかの合意がなされたとか、原則で一致を見たなどの形跡はみられない。むしろ、大統領の一連の発言から、米国は北朝鮮に対する要求のハードルを自ら下げたのではないかとの疑念が広がってきている。

 そういう事情を背景に、関心を引き付けておくための次の舞台として、金正恩が9月の国連総会にあわせて訪する可能性が米国内で取りざたされている。

金正恩の国連総会演説が機会

 金正恩訪米の可能性は昨年も指摘された。

 シンガポールにおける米朝首脳会談の〝成功〟をうけて、国連総会の一般演説で金委員長が核廃棄への決意を披歴、その後ワシントンを訪問、トランプ大統領と会談するという筋書きだった。

 実現に至らなかった構想が、再び取りざたされるのは、今回の板門店会談で、トランプ大統領と金委員長が、ワシントンと平壌を訪問するよう互いに招待したと伝えられているからだ。

 米国の朝鮮半島専門家らに間では、今回の会談が1時間足らずだったことから、核心について協議するには不十分で、時間が割かれたのは、主に相互訪問についてだったのではないかとの推測もなされている。

 トランプ大統領は会談後、金委員長を招待したことについて聞かれ、今後の動きを見なければならないとしながらも「そうなれば名誉なことだ」と歓迎の意向を示した。

 金正恩の米国訪問が実現するかどうかは、現時点で即断はできないが、そうなれば両首脳にとって、核問題の解決には至らなくとも、世界の耳目を集める〝政治ショー〟を継続することはできる。

 2月のハノイでの会談が不調に終わって以来、これを不満とする北朝鮮は5月に、短距離弾道ミサイルを発射するなど挑発を強めてきた。トランプ大統領はこれを問題視しない姿勢を見せているが、北朝鮮の行動がエスカレートすれば、米国内からの批判が強まり苦しい立場に追い込まれる。

 核問題自体の解決には至らなくとも、金正恩訪米によって当面の緊張が和らぎ、長距離弾道ミサイルなどの危険性が除去されれば、再び、得点になるだろう。11月になれば大統領選まで残り1年を切ることを考えれば効果的だ。

 筆者は以前、当サイトで、金正恩を米国に迎えたなら、トランプ大統領はホワイトハウスだけでなく、フロリダの別荘にも呼び、大歓迎で金正恩のプライドをくすぐり、その強硬姿勢をくじくべきだ論じた(「斬首より別荘へようこそー金正恩に核開発を断念させる方法」2017年4月4日アップ)。太陽政策の応用版だが、北朝鮮が核兵器開発にあくまでもこだわるにしても、豊かで自由な米国の姿を独裁者に印象づけることは効果が期待できるだろう。

 平壌を訪問できれば、トランプ氏にしても願ったりだろう。さきに中国の習近平国家主席が訪朝した時の歓迎ぶりは大変なものだった。何十万人という市民が沿道で手をふり、オープンカーの両首脳を迎えるー。2期目の選挙キャンペーンを始めようとしている派手好みのトランプ氏にはこたえられないだろう。

関連記事

新着記事

»もっと見る