2024年4月20日(土)

矢島里佳の「暮らしを豊かにする道具」

2019年7月19日

ハワイのアロハシャツは着物の進化系?!

 本来服装は、場所や気温、時代によって変化するものであったはず。

 ハワイのアロハシャツは、元々着物から誕生したことをご存知だろうか。ハワイへ移住した日本人が、あまりにも暑すぎるので、着物をリメイクして開襟シャツを作ったことが、今のアロハシャツの原点と言われている。気候が変われば着る物も柔軟に変える。現代の私たちが失ってしまっている、柔軟性を先人の智慧から学びたい。

写真提供:亀田富染工場・Pagong

 つい先日も、私がパーソナリティーを務める、FM京都のラジオ『Artisan’s talk』の収録で、京友禅の作家さんと、「着物の種類はたくさんあるのに、着物の着方は近現代で固定化してしまっている」という話で盛り上がった。今の着物は、いわゆる正装の着方しかないと言っても過言ではない。なぜ着物を普段から着る人があまり増えないのかというと、「毎日正装するのは疲れるよね」、ということではないだろうか。

写真提供:筆者

 私は大学時代に、日本人なのに自分の国の民族衣装を着る技術を習得していないことに気がつき、着物の着付けを学びに行った。そして、大学に着物を来て通うようになった。それから12年、着物は春夏秋冬、最低限は揃えてきたが、そんな私も圧倒的に洋装で過ごす日の方が多い。なぜなのか、自分に問うたところ、やはり帯が面倒なのである。「男性のように、簡単に締められる帯にしたらもっと気軽に着られるのにな……。」と思いを巡らせつつお能を見ていたら、女性役の装束も腰紐のような帯で締めており、今のように仰々しい帯ではないことに気がついた。

写真:生原良幸/アフロ

 「もしかして、昔は女性も簡単な腰紐タイプの帯だったのだろうか?」と思ったら、ちょうど京都で、室町時代の着方を再現した展示会が行われた。

 室町時代まで遡ると、庶民は着物を腰紐のような帯で結び、ゆったりと、おおらかに着ていたようだ。近現代のきっちりとした着方の面影はない。今私たちがイメージする着物の着方は、長い長い日本の歴史を遡ってみると、つい最近定着した着方だったのだ。近現代の着方も正式な場では必要だと思うので、それはそれで残しつつ、日常の着方や、夏の暑いときの涼やかな着方を研究し、実験してみる必要がある。着物の着方の伝統も、そろそろ革新が必要なタイミングがやってきた。

「伝統」=「古いものを再現」ではない。

 結局、スーツも着物も、暑いものは暑いのだ。近現代の伝統を頑なに守りすぎて、毎日を心地よく過ごすという本質を見失いつつある気がする。

 女性は男性よりも、服装の自由度と種類が多いので、涼しい服装を取り入れやすいかもしれない。私はフォーマルな洋服屋さんではなく、ウィンドーショッピングで、涼しい服装だけれども、フォーマルな雰囲気のあるものを見つけては、取り入れるようにしている。

 体感温度40度を超える、暑すぎる日本の夏はとどまることを知らなそうなので、このあたりで本質をとらえて、ビジネスフォーマルの概念を再考する大手企業が出てきてほしい。みんなで、これから日本人は何を着るべきか、まずは喫緊の課題である夏の衣類から再考をはじめようではないか。

連載:矢島里佳の「暮らしを豊かにする道具」

矢島里佳(株式会社和える 代表取締役)
1988年東京都生まれ。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り始め、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから、大学4年時である2011年3月、株式会社和えるを創業、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2012年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナル商品を生み出す。テレビ東京「ガイアの夜明け」にて特集される。日本の伝統や先人の智慧を、暮らしの中で活かしながら次世代につなぐために様々な事業を展開中。

  
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