2024年4月20日(土)

日本を味わう!駅弁風土記

2012年2月6日

 かしわめしは不思議と、少し食べただけで満腹になると思う。あるいは、たくさん食べているのに少ししか食べていないと感じるくらい、食が進んでいるのかもしれない。漬物が必ず添付され、おかずが入るバージョンもあるが、それらがいらないと思えるくらい、「飯」に力がある。他の駅の駅弁でも実は同じ感想を持っているが、折尾にはまた折尾の味がある。

社内でも限られた者にだけ代々伝わる「秘伝の味」

 折尾駅弁のかしわめしの味は、秘伝である。販売促進用の宣伝文ではない。販売している駅弁屋の中で代々、数名の女性にだけ伝わる調合だという、本物の秘伝である。テレビの取材が入っても、調合用の部屋にだけは入れてもらえないという。この味が、古今東西の鉄道旅客を魅了してきた。

こちらは1000円のかしわめし

 そして、この味は地元でも親しまれている。駅弁屋のチラシを眺めると、「鉢盛かしわめし」(5,000円)という要予約の商品が見つかる。中身はかしわめしと漬物だけ、分量は5~6人前、重量は約2.5キログラム、直径40.5センチ、割り箸5膳に加えてしゃもじも付く巨大版である。これもまた、宣伝用のネタではない。駅弁屋の社内で「かもり」という略称が付くくらい、よく売れているそうだ。

 折尾駅は昔ながらの駅でもある。鉄道が立体交差する全国最古の駅であり、煉瓦積みの構造物や木造の駅舎がまだ現役だ。しかしここは政令指定都市である北九州市の副都心という大都会でもあるから、ついに近代化の時が来た。連続立体交差事業と街路事業と土地区画整理事業で約830億円を投入する「折尾地区総合整備事業」により、2019(平成31)年度までに線路の位置も駅の形も完全に一新される予定である。人に刻まれた「かしわめし」の味は変わらないとしても、駅弁の形はどう変わっていくのだろうか。
 

福岡健一さんが運営するウェブサイト「駅弁資料館」はこちら
⇒ http://eki-ben.web.infoseek.co.jp/


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