世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年7月26日

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 リビアでは2011年にカダフィが殺害されて以降、内戦状態が続いている。その結果、聖戦主義者に活動の本拠を与え、欧州を目指す難民の出発点となっている。カダフィはかつて「統一が生存の基礎である」と言ったが、本質の一端を衝いているように思われる。

(JuliarStudio/VanReeel/iStock)

 最近ではトリポリに本拠を置く「国民政府(GNA)」と、南東部を恐怖で支配するハリファ・ハフタルの率いる、自称「リビア国軍(LNA)」が戦っている。4月には、国連の事務総長が調停のためトリポリを訪問中、ハフタルはトリポリを攻撃した。今や、ハフタルの進軍に伴うトリポリでの攻防により、1000人の犠牲者が出ているという。しかし、GNAとLNAのいずれも勝利する見通しが立っていない。4月にハフタルがトリポリ攻撃を開始した時には、トリポリを短期間で占領するのではないかとの憶測もあったが、民兵組織の反撃に会い、今では劣勢に立たされている。

 GNAとLNAの抗争が続いている背景には、地域諸国に加えて欧州の主要国であるフランスまでもが各々の思惑から双方に武器を供与しているという事情がある。トルコとカタールはハフタルの反イスラム政策に反対なので、GNAの指導者シラージュの民兵組織に武器を供与している。他方、エジプトとUAEは、ハフタルが支配している油田地帯を、地域の敵対勢力であるトルコとカタールに渡したくないということで、ハフタルに武器、ジェット戦闘機、資金を供与している。このような地域諸国の関与により、リビアの内戦は地域の紛争に拡大する危険がある。6月、ハフタル一派が、リビア海域でのすべてのトルコ船舶を攻撃すると威嚇した。

 筋論で言えば、米欧が国連主導の国民会議の開催を支持すべきである。しかし、ハフタルはそのような和平の動きに反対である。その上、欧州諸国の足並みがそろわない。フランスはフランスの有力石油会社トタルの油田が東部にあることからハフタルを支持し、イタリアは石油会社エニが西部にあるため、GNAを支持している。特に、フランスはハフタル側に武器を供給している。リビアのハフタル派勢力の基地で米製対戦車ミサイルが見つかったが、これについてフランス国防省は7月10日、フランスが米国から購入したものであると公式に認めた。2011年には対リビア武器禁輸決議が国連で採択されているが、常任理事国であるフランスがそれを破っている疑いがあるようでは、効果のほどが知れるというものである。トランンプは一時ハフタル支持を明らかにしていたが、ハフタルの攻勢が頓挫したため、リビアへの関心を失ったようである。オバマ前大統領は、カダフィ後のリビアに備えなかったのは「最大の過ち」だった、と言った。しかし、トランプがその過ちをただすとは考えられない。米欧が国連主導の国民会議の開催を支持すべきであると言っても、このように足並みがそろわなければ国連のイニシアティブは動きそうにない。

 リビアの安定は以下の理由から重要である。 

1.    アフリカ最大の埋蔵量を持つ石油の供給国であること。トランプ政権はリビアの石油生産を石油の世界価格を抑えるために重視していると言われる。

2.    北アフリカの難民の欧州への玄関口であること。国内が一層不安定化するとリビア自身の難民が増える危険もある。

3.    かつてISが活動していたように、再び過激派の聖域となる恐れがあること。

 したがって、国際社会はリビアの安定のためにあらゆる努力を惜しむべきではない。しかし、実際には内戦の停戦すら難しいうえに、和平の見通しは立て難いのが実情である。リビアの混乱はまだ続くと見るべきであろう。

  
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