立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年7月21日

»著者プロフィール
著者
閉じる

立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

日本ブランドへの過信はないか?

 日本ブランドの海外への売り込みを「発信」と位置付ける。その前提には「日本の優位性」という自惚れはなかったのだろうか。私自身も上海やクアラルンプールに長く在住している。いささかそうした日本発信のものに「上から目線」を感じずにいられない。これは何も高島屋に限られた話ではない。「発信」に専念する余り、「受信」側の都合や状態を軽視ないし無視してきた。そうした「自惚れ型」のビジネスモデルに没頭し、多大な損失を被りながらも、その害悪に目覚めることなく今日に至った。

 上海高島屋の撤退。中国現地の報道に指摘されたような敗因は日本国内でほとんど正式に報じられていない。このような敗因分析は、高島屋をはじめ日本企業一般にどう受け止められているのか。これから二度とこのような失敗を繰り返さないためにも、議論が必要ではないかと思う。

 事業の成敗は組織内の「議論」、真の「議論」に依存する。残念ながら、その辺は日本企業の組織的弱点である(参照『日本企業が「議論」を封殺する本当の理由』)。いけいけどんどん海外進出に勢いがつき、前のめり時には結果ありきの戦略決定過程に、冷静かつ客観的に負のリスク要素を提示し、ブレーキ役となれる組織構成員は果たして存在し得るのか。

 思考停止的な同調圧力が日本的組織に致命の破壊力をもたらす。これは何もいま始まったことではない。太平洋戦争に負けた日本軍の組織的本質をえぐり出す名著『失敗の本質』(戸部良一等著・中公文庫)に書かれたことは、現代日本にも脈々と伝承され、生々しく再現されている。状況は一向に改善される気配を見せない。

 高島屋は中国撤退し、今度ベトナムのホーチミン店に加え、ハノイでも新規事業に乗り出す。これを報じる記事は、「海外事業では成長の見込める東南アジアに経営資源を集中する」としている。これを10年前の上海出店記事「今後の成長余地の大きい中国上海市を新規出店地と定めた」に重ねてみると、驚くほど一致している。何も変わっていない。

 「成長の見込める市場」をビジネスの前提とするだけでは、悲劇は終わらない。ベトナムやアジアで中国という前車の轍を踏まない保証はどこにもない。高島屋だけの話ではない。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る