2024年4月17日(水)

Washington Files

2019年7月22日

安全保障面でも核戦略ビジョンはいまだない

 同様に安全保障面でも、自家撞着に陥っているのが、ロシアとのINF全廃条約からの一方的離脱だ。ロシアが「条約に違反し、戦力増強を図っている」(ポンペオ国務長官)ことが、離脱の主な理由だが、その後、説得力ある核戦略ビジョンはいまだないに等しい。

 結局、ロシア側も今年5月、アメリカの動きに反応する形で「条約は失効した」との判断を示すとともに、セルゲイ・ショイグ国防相談話を発表、地上配備巡航ミサイル、および新型中距離ミサイルの生産に着手する方針を明らかにした。

 これに対しトランプ大統領は「米露2国間だけが条約で縛られ、中国が対象外になっているのはおかしい」として、従来のINF条約に代わる米中露3カ国による新たな核軍縮交渉開始について先月、東京で行われた米中首脳会談で習近平国家主席に持ちかけた。だが、中国側からは、冷淡な反応しか得られなかった模様だ。

 このままでは、INF条約を自らの手で消滅に追いやったものの、その結果ロシアにさらなる核戦力増強の口実を与え、アメリカとしても対抗上、一層の軍拡レースを迫られるという矛盾を抱え込むことになる。

 さらに戦略的展望を欠いた米政権の一方的INF条約離脱の結果、欧州同盟諸国が、ロシアの中距離核戦力の新たな脅威にさらされるだけに、今後、米欧関係により一層の亀裂を生じさせることも懸念される。


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