チベットがいま、燃えている


有本 香 (ありもと・かおり)  ジャーナリスト

企画会社経営。東京外国語大学卒業後、雑誌編集長を経て独立。近年とくに中国の民族問題の取材に注力している。『中国はチベットからパンダを盗んだ』(講談社)『なぜ、中国は「毒食」を作り続けるのか』(祥伝社)の他、近著に『中国の「日本買収」計画』(WAC BUNKO)がある。

チャイナ・ウォッチャーの視点

めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。(画像:Thinkstock)

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先週、チベット人デモ隊への中国当局の発砲、死傷者発生の事態を受け、急遽、その内容の新原稿を寄稿した。したがって、順序が逆になってしまうが、ここでいま一度、チベット僧らの焼身抗議の近況をお伝えしたい。とくに今回は、少々別の角度から見た、現在のチベットと中国さらに周辺国の近況について書くこととする。

チベット人の焼身を笑いのネタにする
日本人の「自由」

 本論に入る前にひとつ、触れておきたい件がある。先週末、自由報道協会なる団体が行った「自由報道協会賞」の授賞式での一幕についてだ。その模様は現在もネット動画として流れているが、そこには、言葉を失うほど酷い光景が映し出されている。

 冒頭、プレゼンターだという男性ジャーナリストが画面に登場しスピーチを始めるのだが、この人物はなぜか、ヘラヘラと笑いながら、「私も東電の前で、チベットの高僧のように火を…自殺でもして知名度を上げたほうがいいのかな、と…(笑)」と切り出す。続いて会場からは大きな笑い声が起こり、司会者は、やはり笑いを含ませながら、このジャーナリストのコメントを、「究極のユーモア」と評した。

 筆者は、このジャーナリストがどんな仕事をしているのか寡聞にして知らない。ガン闘病中とのことだが、重病人であろうが、立派な功績があろうが関係ない。これは酷すぎる。

 彼らの言う、「自由」や「報道」、あるいは「自由な報道」がいかなるものか? 筆者には想像もつかないが、同じ日本人として、また、比較的近い稼業の者として、チベットで起きていることを「笑う」自由さえもが浮遊する、そんな今の日本を、筆者は心底恥ずかしく感じる次第である。

年明けにも相次いだ焼身自殺

 本論に入ろう。僧侶らによる焼身抗議は、残念なことに、年明け以降も焼身は続発した。1月7日に、ンガバの町の中心街で2人の20代前半のチベット人が焼身した。この件は、中国メディア、チベット亡命政府系メディアの双方が報じている。一人は件のキルティ僧院の僧侶で、もう一人は元僧侶だった若者と見られている。

 その翌日には、40代の転生ラマが焼身を図った。転生ラマとは、ダライ・ラマ、パンチェン・ラマと同様に、しかるべき高僧の生まれ変わりとして現代にある人物だ。チベット人にとって、特別な存在である転生ラマの焼身という事態が、チベット社会に与えた衝撃の大きさは計り知れず、これはそのまま現在のチベット情勢の深刻さを物語ってもいる。

 転生ラマの名はソナム・ワンギャルといい、現・青海省のゴロク・チベット族自治州ダルラック県の警察署の前で、「チベットの自由」と「ダライ・ラマの長寿」を祈るスローガンを叫んで焼身したという。この命がけのメッセージは、2011年3月以降相次いで焼身した15人のチベット人のすべてに共通のものである。

 さらに、ソナム・ワンギャルは、焼身の直前に配った小冊子に、「自らの個人的な栄光のためではなく、チベットとチベット人の幸福のために焔に晒して身を犠牲にする」と書き残し、最期の瞬間、彼は、「チベット人は希望を失ってはならない。幸福の日は必ず訪れる。ダライ・ラマ法王に長生きしていただき、チベット人は自らの歩むべき道を失ってはならない」と言い残したとも伝えられた。

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著者

有本 香(ありもと・かおり)

ジャーナリスト

企画会社経営。東京外国語大学卒業後、雑誌編集長を経て独立。近年とくに中国の民族問題の取材に注力している。『中国はチベットからパンダを盗んだ』(講談社)『なぜ、中国は「毒食」を作り続けるのか』(祥伝社)の他、近著に『中国の「日本買収」計画』(WAC BUNKO)がある。

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