オトナの教養 週末の一冊

2019年7月26日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

(写真:AP/アフロ)

 イギリスの宇宙物理学者スティーヴン・ホーキング博士は、2018年3月14日に76歳で亡くなった。生涯を通じて「ビッグ・クエスチョン(究極の問い)」に挑んできた「車椅子の天才」は、間違いなく、現代の世界で最も有名な科学者の一人だった。

 本書は、ホーキングが残した最後のメッセージにふさわしく、彼が常々考えてきたビッグ・クエスチョンに対する答えを集めたものである。本の完成を見ることなくホーキングは逝ってしまったが、本書には、彼の科学上の業績のみならず、深い知恵と創造性、そして温かいユーモアのセンスが凝縮されている。

余命告知を受けてからの人生は「思いがけない贈り物」

 ケンブリッジ大学の大学院に進んでまもなく、ホーキングは、運動ニューロン疾患のひとつである筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断された。博士論文を書き上げるまで生きることはできないだろうと言われたが、幸い病気の進行は遅く、それから半世紀あまりを生きのびた。

 その間、家族の愛情とテクノロジーの力を借りながら、ブラックホールの研究をはじめとする科学上の問題だけでなく、社会が直面するさまざまな問題にも率直に意見を述べてきた。

 ホーキングは21歳で余命告知を受けてからの人生を「思いがけない贈り物」にたとえたという。それは、私たち人類にとっても、最良の贈り物であったといえるだろう。

 本書では、研究に邁進するホーキングの姿を通して宇宙物理のホットな話題のシャワーを浴びると同時に、私たちが直面する未来社会の問題に対する彼の深い洞察を知ることができる。

ビッグ・クエスチョンに対するホーキング博士の答えは?

 「なぜビッグ・クエスチョンを問うべきなのか?」から始まって、10章にわたり10の問いに対する思索が展開される。

 「神は存在するのか?」「宇宙はどのように始まったのか?」「未来を予言することはできるのか?」「ブラックホールの内部には何があるのか?」「タイムトラベルは可能なのか?」「より良い未来のために何ができるのか?」。

 これらの問いに対するホーキングの答えは、彼の研究に深く根ざしたものであり、宇宙や時空に関する最新の知見や研究動向をあますところなく、しろうとにもわかりやすく、かつ、いきいきと語ってくれている。

 さらに、「宇宙には人間のほかにも知的生命が存在するのか?」「人間は地球で生きていくべきなのか?」「宇宙に植民地を建設するべきなのか?」「人工知能は人間より賢くなるのか?」。

 これら4つのビッグ・クエスチョンは、彼の研究から大きく飛躍してはいるものの、研究を足場として物理法則にもとづく原理的な考察をしており、大いに示唆に富むものである。

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