世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年7月29日

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 シリアでは、石油の生産が落ち込み、イラン産原油の供給も落ち込んでいるため、経済苦境が悪化している。7月4日のジブラルタル沖でのグレース1号(石油200万バレルを積載したタンカー)の英国による拿捕は、それを象徴する事件のように見える。英国は、同船の貨物はシリア行きであり、欧州海域を通ることで、欧州の制裁に違反した、と言っている。6月には、不可解な爆発が、タンカーからバニヤスの精製所に石油を運ぶ海底パイプラインに損傷を与え、一時的に輸入が停止した。アサド政権はこれを破壊行動であると非難した。

 (Maxim Khasanov/Viktor Bobnyev//iStock)

 シリアのGDPは今や内戦前の水準より60%も低くなっている。シリア・ポンドは1ドル50ポンドだったのが500ポンドで取引されている。国連は再建には2500億ドルかかるとしており、これは、戦前のシリアのGDPの4倍に相当する。アサドは廃墟を支配しており、電灯の電気も供給できない。最も近い同盟国イランは経済危機の最中にある。財政が破綻する中、アサド政権は補助金の削減を余儀なくされている。ガソリンの価格は年初からほぼ3倍になった。

 内戦前、シリアは1日に約38万5000バレルの石油を生産していたが、現在は、その10分の1未満である。イランは数年間、このギャップを埋めるため、シリアの現在の消費量の3分の1以上に相当する、日量約5万バレルを低価格で供給した。しかし、イランは米国による厳しい制裁の下で、それができなくなっている。10月にイランはシリアへの原油供給をやめた。

 シリアは依然として市場価格でイランの石油を買うことができる。しかし、それも容易ではない。スエズ運河を通ればより短距離であるが、重いタンカーはスエズ運河をそのまま通れない。最初に貨物を降ろし、反対側にパイプラインで運ぶ必要がある。このパイプラインはサウジアラビアが部分的に所有しており、イランの使用を禁じている。その上、エジプト当局は目的地がシリアである場合、より軽い船舶もスエズを横断するのを妨げている。アフリカを回る長いルートは残るが、グレース1号のケースが示すように、ヨーロッパの海域で拿捕の危険がある。イランは、ヨーロッパ諸国がアメリカの制裁を相殺し、核合意を維持するために、十分なことをしないと怒っている。

 アサドは、彼は他の親しい同盟国に助けを求めるかもしれない。例えばロシアである。ロシアは既に、占領下のクリミアのセヴァストポリからシリアのタルトゥス港に小麦を輸送している。次の商品は石油かもしれない。しかし、プーチンはおそらく条件に寛大ではないだろう。ロシアの関心は、もっぱら地中海に海軍基地を維持することにあると思われる。

 近隣のアラブ諸国、サウジやエジプトにも、イランの友邦であるシリアへの敵対心こそあれ、アサドを支援する気などないだろう。

 こういう中で、アサドがどう国を立て直していくのか、気が遠くなるような難題である。 欧州の当局者は、アサドは「平和を勝ち取ることができない」と、言っている。そうなると、シリアはこの地域において、大きな不安定要因として今後も残ることになると思われる。シリア国民にとっても、周辺諸国にとっても、またシリア難民が大挙押し寄せた欧州諸国にとっても、不幸な結果になったと言わざるを得ないが、これはイランとプーチンのロシアがアサドを支えてもたらした結果であり、その責任はイランとロシアに取ってもらうしかない。

 米側には、アサドなきシリアを作るチャンスがあったが、オバマが自ら引いたレッドラインを守らなかったこと、トランプがシリア撤兵を望んだことなどで、適切な手を打ち損ねたと思われる。一つの反省材料がここにはある。

  
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