迷走する日本の「働き方改革」への処方箋

2019年7月26日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

 終身雇用という「OS」が使えなくなり、「非終身雇用」という新たな「OS」に取って代わられようとしている。従来の旧OSに機能してきたアプリは、新OSにそのままインストールできない。このように、「OS」と「アプリ」という2大問題が横たわっている(参照『リストラの罠、非終身雇用時代に向かう岐路に立つ』)。

(alexskopje/gettyimages)

非終身雇用時代への移行、3つのパターン

 まず、「OS」の変更は容易なことではない。とは言っても、いざとなれば、企業は経営上の意思決定さえ下されれば、すぐに動き出せる。専門家を動員すれば、企業人事制度の刷新は1年や2年、慣らし運転期間も入れれば、通常は数年程度で新制度への移行完了が可能である(企業の個別事情によりもっと長い期間を要するケースもあるが)。

 企業ベースの制度改革はどんなものになるか。企業によっては千差万別で一概には言えないが、大きく3つのパターンに分けられる。

 1番目のパターンは、「新制度への一斉移行型」である。新入社員も古参社員も特に区分せず、全員新制度適用で一斉に移行し、スタートする。非終身雇用に切り替わるのだが、既存社員には過去の旧終身雇用制度下の勤続年数に応じ、諸々の要素を折り込んで給料の過不足清算を行う。過不足清算とは、終身雇用制度下の生涯各段階における「生産性カーブ」と「賃金カーブ」の乖離によって形成された賃金の「過少支払い」と「過剰支払い」の清算を指している(参考『日本社会の怪、働き過ぎの若者ともらい過ぎの年長者』)。清算が終わると、全員が同じスタートラインに立ち、よーいドンと一斉に走り出す。単純明快な方式だが、反対勢力の抵抗が生じやすく、実務上の改革は容易ではない。

 2番目のパターンは、「新旧2制度の併存と段階的移行型」である。新入社員には「非終身雇用制度」という新制度を適用するが、既存社員には一定の経過措置を講じ、何らかの形で段階的に旧制度から新制度への移行を進める。新制度へ移行してから慣らし運転に入るのではなく、慣らし運転をしてから、あるいはしながら、新制度へ移行するというパラレルラン(並行実施)方式である。

 デメリットとしては、「1社2制度」という体制の構築と初期運用がやや煩雑になり、企業に一定の取引コストが生じることである。一方、最大のメリットは何と言っても、急進的な変革が避けられ、中長期的に平穏な制度移行が可能となることだ。もっとも日本企業に適したアプローチではないかと思う。

 3番目のパターンは、「新旧2制度の自由選択型」である。「1社2制度」の中身は上記の第2パターンに似ているが、ただ企業一方的な「段階的移行」方式を取らない。従業員の自己意思による制度選択を可能にする方式である。ただし、新入社員には一律新制度適用とする。上記の第2パターンよりもさらに長い期間をかけて制度移行するため、よりマイルドなアプローチとなる。ある程度の余裕(長期的原資)がある企業に向いている。

 補足になるが、「働き方改革」で音頭を取っている政府は自ら、産業界や民間企業の前に範を垂れることを求められる。公務員だけが親方日の丸、そのまま何ら変革もないのでは、国民も到底納得できない。AI(人工知能)の導入を含めて、労働生産性の向上を中心とした行政改革をまず断行すべきだろう。

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