Washington Files

2019年7月29日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 軍事対決か、それとも「戦争回避」作戦か―。自らのイラン核合意離脱が招いた国際危機対応めぐり、トランプ政権が苦悶している。一方、イギリスはホルムズ海峡でのタンカー安全航行確保めざし、アメリカ除く欧州諸国との「海上保護派遣団」結成に向け新たな動きを見せ始めた。

 強圧姿勢が先行したトランプ大統領の対イラン言動が最近、トーンダウンしてきている。両国間の緊張激化による戦争回避をめざしたホルムズ海峡「有志連合」の結成呼びかけもその一環とみられている。

(Eblis/gettyimages)

 転機となったのは、明らかに先月22日、いったん決断したイラン軍事拠点に対する限定攻撃の直前での中止だ。

 それ以来、大統領のイラン問題発言には以下のような柔軟姿勢が目を引く: 

 「イランとの間では(協議に向けての)多くの進展を見せている。イランもそれを望んでいる。われわれはイランについてどんなことでも手助けする用意がある。私はイランのレジーム・チェンジ(体制転換)を望んでいない」(7月16日、ホワイトハウス閣議の場で)

 「イランは『17人の米側スパイを逮捕した』と発表したが、彼らはうそをついている。事実ではない。それよりも私は、イラン側が核計画の制限について協議に応じるかどうか、坐してじっと待つつもりだ」(7月22日、大統領執務室で)
 
 こうした発言は昨年5月、イラン核合意からの一方的離脱を宣言して以来の軍事行動も辞さない当時の強気の構えとは大きな隔たりがある。

 従来のホワイトハウスの基本スタンス「最大圧力maximum pressure」作戦からも一方後退した印象さえ与えている。

 大統領だけではない。最近の、米軍中東方面最高指揮官であるマッケンジー中央司令官(海兵隊准将)の発言も話題になっている。

 米軍部内でも強硬派とみられていた同司令官は今月20日、ワシントン・ポストの著名コラムニストとの会見で次のように述べた:

 「イランはつい最近、ホルムズ海峡でイギリス国籍タンカーを拿捕するなど無責任きわまる動きを見せているが、だからといってわれわれは過剰反応のわなにはまってはいけない。米軍の対応は冷静であるべきで、国際社会と歩調を合わせ行動することが望ましい。同タンカー拿捕を受け、中央司令部としては近くの海域に米国籍貨物船を派遣するとともに、無人機と戦闘機によるパトロールを開始した。次なるステップは、集団的海上安全保障計画の策定だ」

 マッケンジー司令官はさらに「米側がそうした慎重なアプローチを断念する時があるとすれば、どのような場合か」との突っ込んだ質問に対しても、「イラン側が今後も自分たちのやりたいことをやるとしても、われわれがこれまでのような抑制された対応から足を踏み外すことになるとは思わない。目立った軍事行動をとらないというのが、司令官としての私のアドバイスだ」ときわめて控えめな発言に終始した。

 こうした慎重姿勢が注目されたのは、去る6月20日、イランが米軍の監視用無人機を撃墜した際、空母機動部隊のホルムズ海峡急派をはじめ、力を背景とした軍部主導のイラン対応を大統領に直接提言してきた張本人がマッケンジー司令官だったからだ(アトランティック誌6月20日付け)。

 それだけに、今回のポスト紙インタビュー内容は、同一人物の発言とは思えない変わりようだ。

 このようにトランプ政権がここにきて、イランに対する強圧的言動を控え、戦争回避の姿勢を見せ始めた背景には、①米国民の大半が先制攻撃を望んでいない②本格戦争にエスカレートした場合の出口が見えない③来年大統領選を控え、野党のみならず共和党保守派の内部にも戦争反対の意見がある④このまま事態を放置すれば、イランが米国の意に反し本格的核開発に進む➄国際世論の同調が得られない―などの要因がある。

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