患者もつくる 医療の未来

2012年2月6日

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勝村久司 (かつむら・ひさし)

高等学校地学教諭、元厚生労働省医療安全対策検討WG委員

1961年生まれ。京都教育大学理学科卒業。高等学校地学教諭。1990年、陣痛促進剤による被害で長女を失い、医療事故や薬害などの市民運動に取り組む。厚生労働省の中央社会保険医療協議会や日本医療機能評価機構の産科医療補償制度再発防止委員会などの委員を歴任。2015年8月より群馬大学附属病院で腹腔鏡等で死亡事故が相次いだ事件の医療事故調査委員に就任。著書に『ぼくの星の王子さまへ』(幻冬舎文庫)、共著書に『どうなる!どうする?医療事故調査制度』(さいろ社)など。

 子宮収縮薬という薬自体に問題があるわけではないが、子宮収縮薬は妊婦によって効き目に極めて大きな個人差がある。効く人と効かない人の差は100倍以上もあると言われている。少量でも、強過ぎる陣痛(過強陣痛)が起こる場合があり、開始時の投与量や増量時のルールなどが学会や医会のガイドラインで厳格に定められている。過強陣痛は、胎児への酸素供給を減らし、赤ちゃんが低酸素脳症になって、重度の脳性麻痺につながるからだ。

 冒頭の発言のように、一部の医師が正しく使っていないことを大きく社会に伝えると、正しく使っている医師まで使いにくくなる、と考える医師はいる。大きく社会に伝えなくても、事故がなくなるのならばそれでよい。しかし、少なくとも74年から、子宮破裂や重度の脳性麻痺が起こっているとして、子宮収縮薬の使用法についてのガイドラインが全産科医に配布され続けてきたのだ。

 今回の報告書では15件中6件だったが、12年春に公表予定の第2回の報告書に向けた議論では、約60件の事例のうち、やはり約4割となる20件以上の事例で子宮収縮薬使用時のガイドライン違反が発覚している。

 再発防止のために必要なことは、正しく使っていない医師が正しく使うようになることである。正しく使っている医師の方が多いから、一部の医師の問題を忘れてしまっていいということはない。現に起こっている事故に蓋をするような姿勢は、産科医療への不信につながり、結果的に子宮収縮薬をより使いにくいものにしてしまうだろう。

強すぎる陣痛のもたらす苦しみ

 子宮収縮薬が、感受性の強い人に過剰に投与されたときに引き起こされる過強陣痛は、まさに拷問の苦しみだ。手足が縮こまってぶるぶる震え、血圧が上がり目玉が飛び出しそうになる、あまりの痛みや苦しみに気絶しないようにするのがやっと、などなど、過強陣痛に襲われた母親の経験はあまりにもひどいものばかりだ。

 産科医療事故の被害者団体には、強すぎる陣痛に襲われて医療者に苦しみを訴えても、効き目の個人差が非常に大きいことを知らない医療者らに「同じ薬を多くの妊婦に投与しているのにあなただけ苦しんでいるのは我慢が足りないからだ」と叱られて放置されたというような被害報告がいくつも届いている。大きな病院の陣痛室にいるにもかかわらず「救急車を呼んで!」と叫んだ妊婦もいるほどだ。

 医療裁判や産科医療の実態を知らない一部の医師らは、「産科は精一杯医療を行っても結果が悪くなることがあるのに、そのような出産のリスクに無理解な患者が医療裁判を起こしている」という主旨の偏見を流布している感がある。しかし、医療裁判の詳細な資料や、今回の再発防止委員会の報告書を詳しく読めば、精一杯医療を行っているとはいえないような杜撰な医療による事故が少なくないことがわかるはずだ。

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