オトナの教養 週末の一冊

2019年8月9日

»著者プロフィール
著者
閉じる

本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領の誕生、イギリスのEU離脱――。世界に衝撃を与えた2つのニュースの裏には、グローバル化や移民の波にかき消されてしまった白人労働者たちがいる。ジョージ・メイソン大学公共政策行政学部ジャスティン・ゲスト准教授は、アメリカではオハイオ州ヤングスタウン、イギリスではイーストロンドンで6カ月にも及ぶフィールドワークを通じ、白人労働者たちの真の姿に迫った。それらをまとめたのが『新たなマイノリティの誕生』(弘文堂)だ。今回、翻訳を担当した一人、成蹊大学・西山隆行教授にヤングスタウンの白人労働者たちの暮らしぶりや政治観などについて話を聞いた。

――『ヒルビリー・エレジー』(光文社)をはじめとし、トランプ大統領の当選を後押したとされる白人労働者に焦点を当てた本が注目されています。

西山:そうですね。本書では、彼らとイギリスのブレクジットに賛成した白人労働者を比較しながら、両者に共通する側面を前提とし、違いにも触れています。アメリカではオハイオ州のヤングスタウン、イギリスではイーストロンドンに著者が住み、フィールドワークを通じて生々しく描かれている。

 私自身、彼らについては、『ヒルビリー・エレジー』などの本を通じ、なんとなくわかってはいたのですが、具体的に政治にどのように関わっているかがわからなかった。そこが克明に描かれていて、出版された当初から注目していました。

――オハイオ州のヤングスタウンは、日本人観光客が訪れるような場所ではありませんし、本書で描かれるようなアメリカの地方に住む白人労働者と言われても、イメージしにくいと思うのですが、彼らはどんな人たちで、どんな街なのでしょうか?

西山:ラストベルトと言われる地域にあるヤングスタウンは、1970年年代までは鉄鋼業で栄えた街です。しかし、鉄鋼業の衰退に伴い、街も衰退していきます。前回の大統領選挙の際に、ヤングスタウンを訪れたのですが、昼間は人も多くなく、比較的きれいな家もあれば、朽ち果てた家もあります。夜になると、空き家であるきれいな家に、違法薬物を使用する人たちが集まり、とても危険だと現地の方から聞きました。

 ヤングスタウンに住む白人労働者は、かつては新移民と呼ばれていたポーランドなどに出自を持つ人たちで、宗教的には他の地域に比べると若干カソリック系の割合が多く、いわゆるWASP(白人、アングロ・サクソン、プロテスタント)とは異なります。

――白人のなかでは、マイノリティに属すわけですか?

西山:新移民と呼ばれた、たとえばアイルランド系の移民たちは、19世紀の新聞ではイタリア系移民、アフリカ系と並べられ、顔が黒く塗られていました。つまり、白人でも、プロテスタントでもないということで差別を受けていたのです。

 彼らの祖先は、それでもアメリカンドリームを信じ、鉄鋼業で真面目に働くことで、社会的な階段を登ってきました。アメリカ国内の鉄鋼業のピーク時には、アメリカが政治、経済の両面で世界の覇権を握った時期ですから、自分たちが偉大なアメリカをつくったんだという自負がある。本書のなかで自分たちはマイノリティだと答えていますが、本心としては認めたくないという屈折した心境でしょう。彼らは、自分たちこそがアメリカのメインストリームであるという意識が非常に強い。そうした成功物語は彼らの家族の中で共有されているんだと思います。

関連記事

新着記事

»もっと見る