前向きに読み解く経済の裏側

2019年8月12日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

文句を言う人がいたら、黙っている人のことを考える

 教室で講義をしている時、「暑いから冷房を入れてくれ」という学生がいたとしても、すぐに入れるのは危険です。それ以外の全員から「寒いから冷房を切ってくれ」と言われかねないからです。

 不満な人は文句を言いますが、満足している人は黙っています。したがって、不満の声だけを聞くと、黙っている人が満足していることを見落としてしまうかもしれないのです。

 かつて某政治家が、高齢者の陳情を受けました。「我々金利生活者は、こんな低金利では生活できない」というのです。そこで彼は記者会見を開き、「金利を上げなければ」と言ったのです。

 金利を上げるのは日銀総裁の仕事で政治家の仕事ではありませんが、そこは置いておくとして、翌日起きたことは何でしょうか。選挙区の中小企業が怒鳴り込んで来たのです。「我々は低金利だから生きていけるので、金利が上がったら死んでしまう」というのですね。

 農産物の輸入自由化が話題にのぼると、農家は生活がかかっていますから、必死に反対運動をします。一方で、多くの非農家は「農産物の輸入が自由化されれば外国産の農産物が安く買えるから、少しは嬉しいが、輸入賛成運動を繰り広げるほど強くは希望しない」という事で黙っているはずです。

 そうなると、反対運動を見た政治家が「国民の多くが反対だから、自由化はやめておこう」と考えるかもしれませんが、それは間違いです。賛成している人の方が遥かに多いのですが、各自は少し賛成なだけなので、誰も声を上げない、ということなのです。

 企業は製品の改良に顧客のクレームを活用する場合があります。これも、気をつけないと危険です。「壊れた」というクレームを受けて、壊れにくいように製品を改良すると、重くてデザインの悪いものとなりがちです。

 一方で、重さとデザインに不満があって我が社の製品を買わずにライバルの製品を買った客は、わざわざ「重さとデザインに不満がある」とはクレームして来ません。

 そこで、クレームに真摯に対応すると、かえって売れ行きが落ち込んでしまう可能性もあるわけです。本来であれば、ライバル製品を買った客に「なぜ我が社の製品を買わなかったのですか」とアンケートすべきなのですが、それは実際には難しいでしょうね。

 したがって、買わなかった客、クレームして来なかった客のことを考える必要があるのですが、これも言うは易く、行うは難し、ですね。

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