立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年8月12日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

富裕層が香港から逃げ出す

 香港の製品輸出額は世界第7位、商業サービス輸出額は世界第15位(2017年世界貿易機関(WTO)統計)。香港外国為替市場の規模はアジア第2位、世界第4位(2016年)。1日当たり平均ネット取引高は4370億米ドル(国際決済銀行(BIS)統計)。香港株式市場の時価総額はアジア第3位、世界第6位(2017年12月末)。香港は、アジア太平洋地域の主要な金融センター。世界金融センター指数(GFCI)はロンドン、ニューヨークに次ぎ世界第3位になっている。

 香港の輝かしい地位は下手にすれば、数年内に失われかねない。外国人投資家は政治に口を出さない。ただ逃げるだけ。資本逃避は香港に致命の一撃を与える。香港の金融システムが衰弱すれば、不動産市場も重大なダメージを受ける。

 富裕層が逃げ出し、香港には逃げられないミドル層以下の市民が残り、貧困層比率が確実に上がるだろう。これにより、内需市場の縮小も予想され、悪循環に陥る。現にその動きが早くも表面化しつつある。

 著名米系ヘッジファンド、ヘイマン・キャピタルのトップ、カイル・バース(Kyle Bass)氏が6月5日付けのTV取材でこう語った。

 「親友の1人が所有する複数の香港不動産を売ったばかりだ。彼は一家ロンドンに移住した。彼は香港生まれ香港育ちで、何世代も香港に住んでいたが、もう、香港に戻ってこない。香港の富裕層は真っ先に恐怖を感じ、政府を信用しなくなると、資産をどんどん香港から外に持ち出す。これはまさに今、発生していることだ。資産をドル化し、あるいは、香港を離れる。この2種類の状況が同時発生すれば、香港は終わりだ」

 米中貿易戦争は何も、製造業に限られた話ではない。サプライチェーンの中国移出は製造業に限らず、金融業にも発生し得る。ヒト、モノ、カネという三位一体の中国脱出は危機的である。

 米国は香港を特別扱いすることをやめ、中国本土の一都市として扱い、対中同様の関税を課税すれば、香港がその国際的地位を失うのにそう時間はかからない。

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