2024年4月26日(金)

食の安全 常識・非常識

2012年2月15日

福島県産であっても、10~11月の検査結果で新基準値を超える割合は9.2%。この数字は一見高く見えるが、魚介類とキノコ類が数字を押し上げている。福島県内では、沿岸漁業、底引き網漁業は操業が再開しておらず、魚介類は検査のために穫られている。また、キノコ類には野生のものが含まれており、出荷規制が講じられている。
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 国や県の検査なんて、信用できるか、という人もいるでしょう。京都大学や朝日新聞が、福島県を中心に食事に含まれる放射性セシウムを測定していますが、検出限界未満が多く、高くても1日で1kg当たり17.30Bqでした。また、福島県の生協「コープふくしま」は、組合員を対象に陰膳調査(家庭で1人分多く食事を作ってもらい、提供を受けて測定する方法)を行い、51家族の調査結果を公表しています。1Bqを超え測定することができたのは 51家族中6家族のみ。最大の数値は、1kgあたり11.7Bqでした。51家族中、9割以上が福島県産の食材を用いており、自家栽培の食材や天然のキノコを食べていた家庭も混じっています。コープふくしまは、放射性セシウムの数値が各家庭の放射性カリウムの摂取の変動幅の4分の1程度しかないことをウェブサイトで説明し、同じ食事を1年続けたと仮定して計算した年間の被ばく線量を、0.01~0.14mSvとしています。

 もちろん、まだ調査が足りない、とも言えますが、低い傾向であることは事実でしょう。でも、新聞やテレビなどのマスメディアはこれまで、暫定規制値を超えたものについては大きく報じてきましたが、大多数の低い結果は伝えていないので、消費者のリスク認知にゆがみが出ており、消費者は高汚染の食品が数多く市中に出回っているという錯覚に捕われています。

 食品規制において、500Bqのレベルで切ってそれを上回る食品を排除しようと、100Bqで切って排除しようと、大多数が100Bqを大きく下回っているなら、大勢には影響しません。でも、錯覚に捕われている消費者の気分は、まったく違う。つまり、新基準値案は、消費者を満足させる「安心策」としては、上々の出来です。

懸念される検査体制

 では、その裏で待ち構える落とし穴とは?

 放射線審議会で指摘されたのはまずは、検査体制が追いつかないのでは、という疑問でした。基準を下げるということは、低いレベルの放射性物質含量を測定できなければならない、ということ。新基準値は、放射性カリウムなど天然にある放射性物質の量と同等程度の低い放射能濃度です。これまで使われて来た分析装置の中には、このレベルの測定が事実上無理なものもあり、測定できるにしても測定時間を現行の2倍、3倍と延ばすことになります。また、データを読み取り適切に補正できる人材もより一層、求められることになります。

 そこで懸念されるのが、検査数が減ること。つまりは検査の網の目が粗くなり、ごくわずかに存在する高汚染の食品がすり抜けて市中に出回る確率が上がる恐れを否定できないのです。

 放射線審議会でも、一部委員から指摘があり、現在検討中の答申案ではリスク管理のレベルが今より下がることを避けるべく、「測定機器の整備やそれを扱う人材の確保・育成などの体制を整備することが重要である」という文言が検討されています。さらに、答申に付けられる別紙の中に、「必要な検査制度及び件数の確保が困難となることによって基準値を超えた食品が市場に出回るといったことに繋がらないように適切な検査体制を整備・強化することが重要である」と入れようとしています。


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