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2019年8月27日

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木村正人 (きむら・まさと)

ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任。2012年独立。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)

 世界的に異常気象が頻発する中、地球温暖化対策として気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に熱い視線が注がれている。「地球」より「自国経済」を優先するトランプ米大統領の反動に対し、TCFDは気候変動に耐えうる「金融の安定性」をキーワードに市場から変革を起こそうとしている。最前線の欧州から報告する。

 この夏、記録的な熱波が欧州を襲った。7月25日、パリで摂氏42・6度を記録、フランスで暑さのため少なくとも5人が死亡した。ドイツで42・6度、オランダで40・7度、英ケンブリッジでも英国史上最高の38・7度に達した。樺太と緯度が同じロンドンでは30度を上回る猛暑は珍しかったが、今や40度が新常態になりつつある。

記録的な熱波が欧州に混乱をもたらしている
(THIERRY MONASSE/GETTYIMAGES)

 英国の鉄道では、「27度」を基準に車両や設備のストレステストを行ってきた。それをはるかに上回る熱波に車内のエアコンが故障したり、中継変圧器が火を噴いて電車が緊急停止したりするトラブルが発生。線路や架線の異常でダイヤが大幅に乱れ、主要駅の一つユーストン駅は閉鎖された。

 ロンドンのヒースロー空港やガトウィック空港でも熱波の後に起きた嵐のため飛行機の欠航や遅延が相次ぎ、大混乱した。こうした異常気象が続けば、企業活動や経済に大打撃を与える。

 実際米国では、代表的な株価指数S&P500に入っていたカリフォルニア州の電力大手PG&Eが今年1月に、気候変動を原因とする初の倒産に追い込まれた。死亡86人、民家など1万8800棟が焼失した山火事は同社の送電設備が火元とみられ、70億ドルもの損害賠償請求訴訟を起こされたためだ。同社の手元には15億ドルしかなかった。

 独電力会社ユニパーはオランダに17億ユーロの建設費を投じて先端の石炭火力発電所をつくったものの、簿価を1年間で15億ユーロから7億ユーロに引き下げた。背景にはオランダの地方裁判所が温室効果ガスの排出量の削減目標を、1990年比で政府目標の14~17%から25%に引き上げよと命じたことがある。

 こうした気候変動による経済的リスク、損害をこうむる企業に融資したり投資したりする銀行や機関投資家の金融リスクに備えるため、2015年12月、金融安定理事会(FSB)により創設されたのがTCFDだ。創設者のブルームバーグ前ニューヨーク市長と当時FSB議長を務めていた英中央銀行・イングランド銀行のカーニー総裁が音頭を取り、気温上昇を産業革命前に比べ2度未満に抑え、さらに1・5度未満を目指す努力をする「パリ協定」を後押しした。

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