2024年4月20日(土)

公立中学が挑む教育改革

2019年8月27日

リソースがなくても改革はできる。大切なのは「マネジメント力」

 1948年開校の東部中学校は、地域の支えが強い伝統校であると同時に、新しく移ってきた世帯の子どもも多く通う公立中学だ。最寄りは長野電鉄の信濃吉田駅と、しなの鉄道の北長野駅。周辺には住宅街が広がり、新築マンションが増えているため若い子育て世帯の流入も多い。

 こうした立地で新たな教育手法に挑み、麹町中学校における工藤校長の改革も目の当たりにした北澤氏に、筆者はぜひとも尋ねたいことがあった。従来の常識にとらわれない教育改革は、「東京のど真ん中」でなければ成し遂げられないのだろうか。

長野市立東部中学校の最寄駅である「信濃吉田駅」

 「確かに麹町中学校のような先進設備はこの学校にはありません。魅力的な外部人材を招くのも、東京と比べれば難しいかもしれない。教員の人的リソースにしても東京と地方では差があります。

 とはいえ、人やお金といったリソースがなければ改革ができないとは思いません。固定担任制を廃止するには優秀な教員をそろえなければいけないのでは? という声もあるかもしれませんが、実際にやってみて思うのは『大切なのはマネジメント力だ』ということ。すべての教員が最初から飛び抜けている必要はないんです。校長のマネジメントはもちろん、学年担任制においては、学年主任のマネジメント力も問われると感じています」

 特段恵まれた地域ではなくとも、学校は変えられる。北澤氏がそう語る背景には、従来の学校体制を闇雲に否定するのではなく、地域が大切にしてきた思いを受け継ごうとする姿勢もある。

 長野県に対しては「教育県」のイメージを持つ人も多いかもしれない。事実、長野県は明治の学制が始まってから全国的に見ても就学率が高く、大正期には地元教員たちの間で「学校教育では子どもの内面を大切にすべきだ」という考え方が広まっていったという。

 「それは今でも特徴として根づいていて、長野の先生たちは『信州教育』と呼んで誇りにしているんです。教科書について検討するときも、『どう教えるか』ではなく『この場面で生徒はどう感じるだろうか』とみんなで考える。私が考える学習者本位も、こうした積み重ねの先にあるものです」

 北澤氏自身も、信州教育を誇りに思う「長野の教員」として改革に向き合っているのだろう。それは東部中学校を支える教員の言葉からも感じられた。次回の稿では学年担任制を束ねる学年主任の声も紹介しながら、同校の改革の現場に迫ってみたい。

後編につづく

▼連載『公立中学が挑む教育改革』
第1回:「話を聞きなさい」なんて指導は本当は間違っている
第2回:対立は悪じゃない、無理に仲良くしなくたっていい
第3回:先生たちとはもう、校則の話をするのはやめよう
第4回:教育委員会の都合は最後に考えよう
第5回:着任4カ月で200の課題を洗い出した改革者の横顔
第6回:“常識破り”のトップが慣例重視の現場に与えた衝撃
第7回:親の言うことばかり聞く子どもには危機感を持ったほうがいい
第8回:保護者も学校を変えられる。麹町中の「もうひとつの改革」
第9回:社会に出たら、何もかも指示されるなんてことはない
第10回:人の心なんて教育できるものではない(木村泰子氏×工藤勇一氏)
第11回:「組織の中で我慢しなさい」という教育はもういらない(青野慶久氏×工藤勇一氏)
第12回:「定期テスト廃止」で成績が伸びる理由
第13回:なぜ、麹町中学は「固定担任制」を廃止したのか
第14回:修学旅行を変えたら、大人顔負けの「企画とプレゼン」が生まれた
第15回:「頑張る」じゃないんだよ。できるかできないか、はっきり言ってよ​
第16回:誰かと自分を比べる必要なんてない(澤円氏×工藤勇一氏)
第17回:失敗の蓄積が、今の自分の価値を生んでいる(澤円氏×工藤勇一氏)
第18回:教育も組織も変える「魔法の問いかけ」とは?(澤円氏×工藤勇一氏)
第19回:「言われたことを言われた通りやれ」と求める中学校のままでいいのか(長野市立東部中学校)
第20回:生徒も教職員も「ついついやる気になる、やってみたくなる」仕掛け(長野市立東部中学校)

多田慎介(ライター)
1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。

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