世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年8月26日

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 4年に一度のオリンピック・イヤーは、米国大統領選挙とともに台湾総統選挙の年と重なる。特に、台湾総統選挙は1月に投開票されるので、年が明けるとすぐに、その選挙結果が気になり始める。台湾の将来は、隣国の日本及び東アジア地域全体の平和と繁栄に影響を与えると言っても過言ではないだろう。

(abstractdesignlabs/DigitalVision Vectors, Mehmet Kalkan/MekongAnimated/iStock /Getty Images Plus)

 その台湾総統選挙の二大政党の候補が決まった。与党民進党は、現総統の蔡英文が再選を狙う。野党国民党の候補には、7月28日の党大会で、現高雄市長の韓国瑜が選出された。

 韓国瑜が市長を務める台湾南部の高雄市は、もともとは民進党の牙城と見なされていた場所であるが、昨年11月の統一地方選挙で、国民党の韓国瑜が、「ポピュリズム」と呼んでよい手法で、高雄市で圧勝した。

 短く、扇動的に巧みな弁舌で勝利した韓国瑜については、一時選挙後もその勢いがこのまま続くのではないかと思われた。しかし、7月30日付の台湾の英字紙、タイペイ・タイムズ紙が指摘する通り、「事実を軽んじ、感情に重きを置く」弁舌に見られるように、韓の弁舌が一般には中身に乏しいことがはっきりしてきた。 

 外省人の韓は、軍の下級士官をやめたあと、青果市場の社長を務め、地方議会議員を務めたりした。高雄市長に当選した後、直ちに香港、マカオ、福建省などを往訪し、中国共産党幹部らと会談を行った。そして、その後、香港で、逃亡犯引渡条例の改正をめぐって大規模デモが頻発し、それについて台湾のメディアから聞かれると、韓は、「それは良く知らない」と応答し、台湾人の顰蹙を買っている。これは香港の状況が如何なる展開を見せるかも台湾の今後の政治状況に大きな影響を与えることを示している。 

 来年1月に総統選挙を控えた台湾にとっては、中国と如何なる距離を取り、如何なる対中政策をとるかが最重要課題となってきたと言ってよいだろう。昨年11月の統一地方選挙が、実質上、あくまでも内政、経済が主たるテーマであったのとは対照的である。 

 国民党の対中政策は、馬英九政権の時以来、基本的に変わっていないが、「1992年コンセンサス」というのがそれである。習近平政権下の中国では、この「1992年コンセンサス」と「一国二制度」は基本的に同一であるとの立場をとっている。 

 上海の国際空港に行くと、搭乗口の表示が、「香港、マカオ、台湾」と、台湾は、香港等と並べて記載されている。中国共産党政府にとっては、そういう認識であることが分かる。しかし、この「一国二制度」も、香港の状況を見れば、既に崩壊していることが分かる。立法、司法、行政も、ほぼ中国共産党の言いなりである。いうまでもなく、今日、収束の付かない香港のデモは「一国二制度」なるものが、いかに欺瞞に満ちたものであるかを如実に示すものとなっている。 

 ちなみに、最近台湾の政治大学が行ったアンケート調査の結果によれば、台湾人のうち約9割弱が「一国二制度」に反対している。 

 今日の台湾では、来年1月の総統選挙に向けて、国民党内の予備選で敗退した郭台銘(鴻海精密機器の創業者)がどのような対応をとるのか、無所属の台北市長の柯文哲が新しく立ち上げた政党から立候補するのかなど、流動的な要素は多い。特に柯文哲が新しい政党から立候補する場合に、本来民進党に流れる票が分裂し、蔡英文にとって不利に働く可能性があること等が取りざたされている。 

 蔡英文総統は最近、中南米諸国を歴訪したが、米国側が往路・帰路の蔡の米国立ち寄りの際に種々の好意的な処遇を与えたことが注目される。さらに、トランプ政権が、中国政府からの強烈な反対にかかわらず、最近、22億米ドルに及ぶ戦車、防空ミサイルを台湾に供与することを決定したことは、蔡政権への明確な支援と解することが出来よう。

 いずれにしても、来年の台湾総統選挙は、東アジアの将来にとって、正念場となりそうである。

  
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