ライフ

2019年8月23日

»著者プロフィール
閉じる

馬場未織 (ばば・みおり)

日本女子大学大学院修了後、建築設計事務所勤務を経て建築ライターに。2007年から平日は東京、週末は千葉県南房総市の里山の二地域で居住する。田舎暮らしなどをテーマに執筆活動を展開。南房総の里山と都市に暮らす人をつなぐNPO法人南房総リパブリックの理事長も務める。著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

 「平日は東京、週末は千葉県南房総」という二拠点生活を始めて12年以上経っていると、さまざまな質問が飛んでくる。「実際、二拠点生活ってどんなメリットがあるんですか?」といった説明を求められることも、二拠点生活ハウツー本のようなものを書いてほしいと言われることも少なくない。

 ただ、筆者としては常に、何とも言えない違和感がある。「コレを知れば、アレが手に入る!」「コレだけやれば、最短でココに到達!」といった、方法と結果が直結するようなことを求められてもなあ、と戸惑う。みんなが欲しがっているものをうまく提供できなくて、申し訳なく思う時さえある。そんなわけで今回は、二拠点生活ならではの学びとは実際どういうものか、最近の体験をもとに話してみようと思う。

集落の共同作業での、休憩時間。集まって働き、つながりに厚みができる(筆者提供、以下同)

ある南房総での1日について

 雨降りの合間に土から強烈な湿気が立ちのぼり、身体をぼわっと包むのが何とも暑苦しかった、ある梅雨明け直前の日。数日前に亡くなられた近所のおじいさんの出棺があった。

 ご自宅で亡くなられたそうだ。

 耳が聞こえず、牛舎のあたりで黙々と乳牛たちの世話をしている方だった。よくお会いするので、その都度ぺこっと頭を下げて挨拶をするのだが、大抵は無反応。昔は手話を学ぶ機会もなかったとのことで、なかなか意思の疎通ができなかった。でも、だいぶ前にたった一度だけ、彼がニコッと笑ってくれたことがあった。びっくりして嬉しくて今でも覚えているが、どうして笑ってくれたのかは思い出せない。

 体調不良で病院に行き、それでも普通に家でごはんを食べてお風呂にも入ったという。ところが翌日、家の中で倒れているところをご家族が発見したとのこと。
お通夜もお葬式も地域の斎場で行うが、近所の親しい人達はその前にご自宅でお線香をあげるために、寄り合って伺うものだそう。「みおりさんもこっちに住所があんだから、都合合えば来るといいっぺ」と声をかけてもらい、ご一緒させてもらった。

 田舎の道の辻の脇で、ご近所さん数人で待ち合わせる。

 早々に到着しておしゃべりをしているおばあさんたちもいれば、すこし遠くから、手押し車を支えにゆっくりゆっくりやってくるおばあさんたちもいる。(おじいさんは亡くなり、おばあさんが残っている傾向が分かる。)
 田んぼの向こうに姿が見え始めてからが長い。「ああ、来た来た」「いやあ、まーだまだ着かないから。10分15分かかっぺよ」と、すでにいるメンツでのんびりと待つ。

 本当にそれくらいの時間をかけて、全員集合。「はい、到着しました」「おつかれさんでしたよ」と言葉を交わすおばあさんたちはどことなく嬉しそうな表情をしている。足が悪くなるとなかなか以前のように気軽にホイホイ誰かに会いに行くわけにはいかないはず。ご近所さんで一同顔を合わせるのは、きっと久しぶりなのだろう。    

関連記事

新着記事

»もっと見る