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2019年9月1日

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勝村久司 (かつむら・ひさし)

高等学校地学教諭、元厚生労働省医療安全対策検討WG委員

1961年生まれ。京都教育大学理学科卒業。高等学校地学教諭。1990年、陣痛促進剤による被害で長女を失い、医療事故や薬害などの市民運動に取り組む。厚生労働省の中央社会保険医療協議会や日本医療機能評価機構の産科医療補償制度再発防止委員会などの委員を歴任。2015年8月より群馬大学附属病院で腹腔鏡等で死亡事故が相次いだ事件の医療事故調査委員に就任。著書に『ぼくの星の王子さまへ』(幻冬舎文庫)、共著書に『どうなる!どうする?医療事故調査制度』(さいろ社)など。

文系用の地学基礎も履修率は最も低い

 「物理」「化学」「生物」「地学」の4単位(一週間に4回授業がある)の理系の科目を選択するためには、それぞれ、その前に「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」という2単位科目(一週間に2回授業がある)を選択しておく必要がある。「科学と人間生活」という科目もあるが、基本的には、学習指導要領によって高校を卒業するまでに、これらの「基礎」がつく科目から3つを選択することになっている。

 文系の生徒なら、理科は「基礎」がつく科目のみを学んで卒業する場合もある。文系の生徒が4つの内から3つを選ぶならば、その内の一つに地学基礎を選択すればよいのに、実際は履修率が最も少ない。平成30年度の教科書需要数では、物理基礎73万7368冊、化学基礎101万5991冊、生物基礎106万9107冊、に対して、地学基礎は33万681冊だ。

 2016年夏に行われた地学団体研究会の第70回総会で、埼玉県の高校教員の宮嶋敏氏が発表した資料によると、地学基礎の履修率の全国平均は27%で、50%を超えている都道府県はなく、40%を超えているのは、京都、愛媛、千葉、沖縄、埼玉、長野の6府県だけだ。逆に履修率が低い都道府県は、順に、大分、岡山、栃木が10%以下、佐賀、奈良、島根、宮崎が15%以下、岐阜、新潟、福岡、兵庫、長崎、愛知、山形、山口、熊本が20%以下、と続く。これらの県では多くの高校で地学基礎は開講されていないだろう。

地学教員の募集ゼロを続ける東京都の混乱

 地学や地学基礎の科目を軽視している都道府県の教員採用試験の募集要項をホームページで見ると共通していることがある。それは、理科の教員の募集の欄に「理科(物理・化学・生物)」と明記され、地学がはずされているのだ。現場の各校で地学を教えていないから、地学の教員は不要、ということだろう。つまり、理科の中から地学がなくなってしまっていることに何の問題意識も持たず、現状を追随しているだけであり、それは、文部科学省の無策にも原因があるだろう。

 全国で最も高校数の多い東京都でも、教員採用の募集要項は、今年度も「理科(物理・化学・生物)」となっている。

 東京都では、公立高校の入試問題の地学分野でミスが続いている。2014年2月の入試のミスについては『防災の日に思う 地学教育を空洞化させた文科省と教育委員会の責任は重い』に書いたが、その後、2016年2月の入試でも、『都立高校入試でまた出題ミス  理科教員の地学離れは深刻』に書いたようにミスが起こっている。

 入試の問題でミスがあることは珍しいことではない。しかし、東京都の数多くの公立高校で一斉に行われるために慎重につくられるはずの入試問題で、地学だけミスが続くのはなぜか。

 この2回のミスでは、実施直後から、都内の教員や外部の有識者らから東京都に「ミスではないか」という指摘が相次いでいた。共通しているのは、東京都がその指摘をすぐに理解できなかった、と考えられることだ。そのために、2014年の際には、合格発表の前日になって、東京都は各高校に採点をやり直すように指示を出し、現場が大混乱した。2016年の際には、東京都は一度、相次ぐ問い合わせに対して「東京都の見解」を公表したが、その内容が、完全に間違っていた。これでは、正しい答えも導けないし、そもそも、まともに問題を作成できない、というレベルだったのである。

 この年、東京都は、採点のやり直しをせずに合否判定を行ったが、その後も、天文教育普及研究会が3月9日付で「平成28年度東京都立高等学校入学者選抜学力検査問題(理科)に対する意見書」を出したり、毎日新聞が4月19日で「都立高入試 理科の設問「不適切」 専門家異論 都教委、HPで「見解」」という見出しで報道したりなど、都の対応は到底納得できるものではなかった。この毎日新聞の記事の中で、都の担当者は「これだけ疑義が出ているので良い問題だったとは言えない。専門家などの意見を聞きながら、問題の質の向上を図りたい」とコメントしているが、今年も、東京都の教員採用で地学の募集はゼロなのである。

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