2024年4月24日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年2月20日

 また、習氏は「両国は朝鮮半島問題やイランの核開発などの国際問題で協調していくべきだ」とし、習氏の米国滞在中、中国はシリアに暴力停止を求める特使を派遣して、問題解決に向けた実際行動もしてみせた。

 習氏にしても、米側に言われたまま帰国すれば、中国指導部内で「弱腰」と批判され、立場が危うくなるかもしれない。対外的な発言でありながら、国内向けの宣伝効果を強く意識している点は米中共通と言えよう。

巧みなイメージ戦略と経済外交

 習氏は、河北省の地方幹部だった1985年に視察した米中西部アイオワ州のマスカティンを訪れ、ホームステイ先の家族ら当時出会った人々との再会を果たした。農業が盛んな同州では農村も視察、同行団は総額約43億ドル(約3390億円)に上る米国産大豆の購入契約を発表してみせた。

 市民との触れ合いで、「気さくな人柄」をアピールしながら、農業地帯で大量の大豆買い付けを明らかにして、貿易不均衡への米国民の不満を和らげようとの演出だ。

 米映画産業の中心地ロサンゼルス訪問に合わせて、アニメやゲームを制作する米中合弁の会社を上海に設立する計画も明らかに。一方、米政府も中国が米国製映画に対する流通規制を大幅に緩和することに合意したと発表、中国で米映画の配給がしやすくなり、米国内の雇用創出につながると強調した。雇用がよくならない限り、オバマ大統領再選は難しいと言われており、米政府も習氏の「経済外交」に相乗りした形だ。

 習氏訪米には、中国の企業関係者約500人が同行。大豆を含む総額271億ドル(約2.1兆円)の米国産品を購入し、欧米の経済が低迷する中で、昨年も9.2%の高成長を維持した中国の経済力を見せつけた。

人権問題めぐる米中間の駆け引き

 習氏訪米の舞台裏では、人権問題をめぐって米中間の微妙な駆け引きがあった。中国では政府の弾圧に抗議するチベット仏教僧の焼身自殺が相次ぎ、チベット人居住地域で緊張が高まっている。米メディアによると、米国務省の大使(宗教の自由担当)が2月8日から訪中し、関係者から事情を聞く予定だったが、中国政府がビザを発給しないため、訪中延期となったままだ。

 米メディアは、習氏訪米への配慮から、米政府は中国への抗議を控えているとの見方を伝え、オバマ氏を暗に批判した。

 米ワシントン・ポスト紙は習氏滞在中の社説で「米国は中国の政治改革の必要性に焦点を当てた政策を行うことが重要だ。習氏が権力を握る10年間に、もし政治改革がなければ、中国の安定は保てないし、近隣諸国との平和維持も難しい」として、米政府により積極的な人権外交を求めた。

TPPと日中韓FTAの情報交換

 昨年11月、オバマ大統領は外交と通商の重点をアジア太平洋地域に移す新たな外交戦略を打ち出した。日米メディアは連日のように「中国包囲網」「米中衝突」などと書き立てたが、日米の外交当局者や国際政治学者は当惑気味だった。

 習氏への米政府の厚遇ぶりをみても、米中関係を単純に割り切ることは難しい。中国製品が世界中にあふれ、日米欧など多数の外国企業が中国に投資している状況下、経済・貿易面で中国を切り離すことは不可能だ。

 オバマ大統領は環太平洋連携協定(TPP)推進に強い意欲を示し、メディアは「中国はずし」と決め付けたが、中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓などの自由貿易協定(FTA)交渉には前向き。この二つの枠組みは、貿易自由化のゴールは同じであり、メンバー国もかなり重なる。


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