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2019年9月7日

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土方細秩子 (ひじかた・さちこ)

ジャーナリスト

ボストン大学コミュニケーション学部修士課程終了、パリ、ロサンゼルスでテレビ番組製作に携わり、1993年より米国でフリーランスのジャーナリスト活動を行う。

 ピニンファリーナといえばマセラッティやフェラーリのデザインで有名なイタリア企業。車だけではなく豪華客船、ヨット、バイク、オフィス家具、エスプレッソマシンから衣類、ゴルフクラブ、サングラスなど様々な製品を手がけている。

 そのピニンファリーナがプロデュースしたホテルが米カリフォルニア州サンディエゴにある。ザ・キーティングホテル、という名称だ。ホテルはサンディエゴ中心部のガスランプ・クオーターと呼ばれる、古くからの建物が並ぶ一角にある。

ホテルの内装

 キーティングホテルの建物は1890年に建造された煉瓦造のもので、ロマネスク・リバイバルと呼ばれるスタイルだ。建造以来サンディエゴ市の最初の公共図書館、銀行、法律事務所、ナイトクラブなど様々な用途に利用されてきたが、2011年にピニンファリーナが買い取りホテルとして再生させた。

 ガスランプ・クオーターにはコンベンションセンターがあり、新しいホテルも多く存在する。しかし周辺にはこのような古い建物を改装した昔ながらのホテルも多くあり、馬車が走っていた時代を思い起こさせるガスランプや馬留のための鉄の輪などが歩道に残されている。観光地としても有名なエリアだ。

 キーティングホテルは部屋数わずか35室というデザイナーズ・ブティックホテルである。ロビーは古色蒼然としており、奥に一台だけあるエレベーターはかなりの年代物で、一部のボタンが作動しないなど、やや不安になるようなもの。しかしこのエレベーター、実はサンディエゴで現在も稼働しているものとしては最古なのだという。

 もちろんエレベーターの籠は過去に交換されているが、システムは創業当時のものが今も使われている、という。そうした歴史を知ると、超低速で危なっかしい感じのエレベーターも風情があるように見えてくる。

 そしてエレベーターを降りて客室階に足を踏み入れると、外観のイメージとは全く異なる非常にモダンなデザインを目にすることになる。客室のテーマは基本的にピニンファリーナのモチーフでもある赤と黒。そして2階から4階までの客室フロアにはそれぞれテーマとなるピニンファリーナデザインの車のモデルが展示されている。

 客室はインダストリアルデザインと呼ぶのがふさわしい、無機質で実用的な感じのインテリアになっている。こうしたホテルには珍しく、客室はカーペット敷きではなく工場のようなリノリウム張り。まず目を引くのがステンレス製のシンプルな洗面台だ。さらに横手にあるシャワーブースはガラス張りでドアもない。一応目隠し用にカーテンは用意されているが、ミニマルデザインの典型とも言える。

 ベッドの両脇にあるクローゼットも表面がステンレス加工のもので、引扉ではなく全体がプルアウトとなっている。そこに用意されていたバスローブも表が赤で裏地が黒、というこだわりが見られる。ちなみに備え付けのタオルやアメニティも非常に質の良いものが揃っていた。

 一方でベッドは木製のクラシックなデザインで、これがモダンな他のデザインとマッチして居心地の良い空間を演出していた。このようにクラシックなものとインダストリアルなデザインを組み合わせたものはニューヨークのSOHO風、と呼ばれるが、確かにマンハッタンの屋根裏にでもいるような雰囲気のあるインテリアだと感じられた。

 そしていかにもピニンファリーナがデザインしたモダンホテル、というのを実感させられたのがAIチャットボットの存在だ。このホテル、フロントには受付係りが1人いるだけで、喩えは悪いがよくあるちょっと安いサービスの悪いホテル、という印象がある。

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