立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年9月10日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

 中国人民の「国民食」といえば、豚肉。しかし中国では、豚コレラの影響などで豚肉の価格が急騰し、庶民の食生活に深刻な影響が及んでいる。李克強首相が8月19日から20日にかけて自ら地方の市場を視察し、豚肉等の食料品の状況を調査していた。さらに8月21日の国務院常務会議では、豚肉問題が議題として取り上げられた。これだけ豚肉の問題が大きいのだ。食糧問題にとどまらず、豚肉が不足すれば社会的安定を脅かしかねず、社会問題や政治問題につながるとも言われている。

2019年 中華圏の干支は「豚」(REUTERS/AFLO)

豚肉購入制限、配給時代再来の気配?

 現状は厳しい。豚肉の供給が急減しているだけに、市場メカニズムによる価格急騰は避けられない。一部の地域ではすでに豚肉の購入に身分証明書の提示などが求められ、購入量の制限を受けている。いささか昔計画経済時代の配給制度を想起させる。

 福建省莆田市荔城区は8月20日付けで通達を出し、市場価格の安定化を図り、「安価商店販売制度」を導入すると発表した。9月6日から豚の腿肉やヒレ肉、スペアリブ、ばら肉に対して購入制限を加え、身分証明書の提示により1人あたり2キロまで購入可とする制度を打ち出した。なお行政支援として1キロあたり4元の補填を行うという条件も加えられた。

 ネット上の書き込みによれば、福建省漳州市の某スーパーでは豚肉スペアリブは最高値で500グラムあたり59.8元となっていた。これは高い!中国メディアの華夏時報によれば、豚肉価格の上昇に対応し、今年4月から全国29の省において価格補填連動システムが導入されたという。

 豚コレラも一因だが、米中貿易戦争による米国産大豆の輸入量減少も大問題。私が今年2月19日付けの顧客レポートにこう書いた――。

 「大豆輸入の減少で困っているのは中国だ。国民食である豚肉の供給は、豚の餌の原料となる大豆に頼っている。豚肉の供給に支障が出て豚肉の価格が上がれば、中国人民の不満が一気に噴出するだろう。いまただでさえ、豚コレラで大問題になっているくらいだから、泣き面に蜂で大豆の輸入が減れば、豚肉の問題はただの食糧問題ではなく、政治問題にもなり得る」

 40年にわたった中国の改革開放は経済成長を遂げた一方で、農業や牧畜業を荒廃させた。いまさら重農主義を引っ張り出しても遅い。付加価値の低い農業にしがみついたら餓死するのがオチだ。天災地変という自然界の飢饉は怖くない。金さえあれば、食糧を買えるからだ。怖いのは「政治的飢饉」だ。

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