田部康喜のTV読本

2019年9月11日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

 NHK「サギデカ」(毎週土曜日よる9時)は、捜査2課の警部補・今宮夏蓮(木村文乃)が「振り込め詐欺」グループの頂上に立つ黒幕に迫る異色の刑事モノである。殺人事件や反社会的勢力との派手な立ち回りもない。脚本の安達奈緒子が紡ぎ出す美しいセリフの数々がドラマの魅力である。

(PRImageFactory / gettyimages)

 安達はいま、もっとも美しいセリフを紡ぎ出す脚本家のひとりである。見習い看護師の少女の成長を描いた「透明なゆりかご」(2018年7月、NHK)は、産院の緊迫した医療現場を舞台にして、産婦たちと家族の人生を静かなセリフで浮かび上がらせ、文化庁芸術祭大賞を受賞した。

 ドラマは、殺風景なアパートの一室で、今宮(木村)が寝起きのまま服をまとわずに下着姿をみせる、ドキッとさせられるシーンで始まる。同僚と一緒に向かい側のマンションの一室にある「振り込め詐欺」の拠点を監視していたのだった。

 「あっ、また一番で出勤だ」。今宮が双眼鏡でみると、マンションに向かう坂道を背広姿で、旧型の音楽再生装置をイヤホンで聞きながら歩いてくる青年(高杉宇宙)が目に入る。マンションの一室に吸い込まれていく背広姿の一団は、「振り込め詐欺」の被害者に電話をかける「かけ子」の集団である。

 今宮からの連絡を受けて、係長の警部・手塚賢三(遠藤憲一)のチームが、マンションの一室に家宅捜査に踏み込む。詐欺グループの「店長」と呼ばれるリーダー(玉置玲央)は、あらかじめ水を張っておいた風呂に詐欺に使っている名簿を浸して、証拠の隠滅を図り、これも逃げ口にと空けておいたクローゼットの裏の穴から逃げる。

 今宮(木村)が、逮捕したのは現場から逃げていた、一番にマンションに通ってくる青年だった。しかし、彼は氏名を明かさない。今宮は、彼がいつも聞いている音楽再生装置にカギがあるのではないか、と探る。再生回数が飛びぬけて多い、インディーズの「夜中の逃走」が手掛かりになった。静岡県山内市のバンドの作品だとわかり、現地を訪れて、青年がこの市の出身で、「加地颯人(かじはやと)」とわかる。加地は、小学生時代に父母に捨てられ、弟は衰弱死していた。

「加地颯人さん、あなたは児童福祉施設で高校まで卒業しました。でも、同情はしません。自分が社会的弱者だからといって」

「俺は弱者なんかじゃない。でもどうやって……」と、加地は反発する。

「あの曲を作った人が、加地君が制服でコンサートに来てくれたって。覚えてましたよ。再生回数の22回は私が聞きました。けっこう好きです」

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