2024年4月20日(土)

解体 ロシア外交

2012年3月7日

 しかし、日本にとってプーチンが良いパートナーとなるかは疑問だ。プーチンは、いくつかの政策論文では日本について言及しなかったが、選挙直前に北方領土の「引き分け」論を提示し始めた。中国との領土問題の解消を「50%・50%」で行ったことも引き合いに出している。しかし、これは領土を「返してくれる」ということではないと思われる。期待感を日本に与え、ビジネスや技術協力を深めるインセンティブを強化し、領土問題については「そのあと」考える、という方針だと思われる。しかも、2島返還論が最大の前提ということになるため、北方領土4島の「面積の50%・50%」ではなく、「2島・2島」がロシアの最大の譲歩ということになりかねない。いずれにせよ、日本が進めている4島返還論での交渉は難しいことは肝に銘じておくべきであり、ビジネスや技術協力だけに利用されないように、日本も確固たる外交を行っていくべきだろう。

「ユーラシア連合」構想は対中国対策?

 最後に、近い外国については、今後穏健な政策を取って行く可能性が高いと思われる。

 プーチン氏は、昨年9月にメドヴェージェフ大統領とのポスト交換を発表した直後の10月に、「ユーラシア連合」の構想をぶち上げ、旧ソ連地域の関係を再結束し、アジアとEUの間の懸け橋となるという宣言をしていたが(参考:拙稿「旧ソ連復活? ユーラシア同盟構想に見るプーチン新外交」「プーチン政権再来とその対外政策の展望」)、その後、本件についてほとんど語られることがなくなった。

 他方、同構想を発表した後、明らかに中国に対する姿勢が変わり、意識している状況が見て取れる。本構想は中国を意識して出したものと見た方がよさそうだ(防衛研究所・兵頭慎治氏談)。

 たとえば、昨年10月5日には、中国側の通訳がロシアのS-300地対空ミサイルの機密文書を盗もうとしたとして、約1年前にロシア連邦保安庁に逮捕されていたことを突然発表した。しかも、それはプーチン氏の10月28日の訪中の直前であり、そのタイミングが多くの憶測を呼びんだ。「中国に恩を売るため」「難航していた天然ガス価格交渉(参考:拙稿「中露蜜月に水を差す天然ガス問題」)を有利に導くため」「中国のスパイ活動や兵器情報の無断使用を牽制するため」などの理由があるのではないかと議論された。

中国との会談を拒否したロシア

 11月22日には、空母開発を進める中国が、艦載機の着艦に不可欠な機体制動用ワイヤをロシアから購入しようとして、拒否されたことも報じられている。

 さらに、次期中国首相候補と見られている李克強・副首相が2012年1~2月中のロシア公式訪問を計画し、プーチン首相とメドヴェージェフ大統領に会談を申し込んだが、二人とも、李副首相との会談を拒否した。友好国である中国の高官との会談を拒否することは極めて異例の事態で、中国側はロシア側に理由(ちなみに、プーチン氏の拒否の理由は、大統領選挙で忙しいということだった)を問うなどし、両国関係に緊張が走った。

 色々な憶測が流れているとはいえ、これらの動きが中国にメッセージを発していることは間違いない。

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