WEDGE REPORT

2012年3月8日

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井原 裕 (いはら・ひろし)

獨協医科大学越谷病院こころの診療科教授。1962年生まれ。東北大学医学部、自治医科大学大学院を経て、ケンブリッジ大学大学院修了。順天堂大学准教授を経て、現職。著書に『激励禁忌神話の終焉』(日本評論社)などがある。

 このままでは、動かないことによる身体の衰えが危惧される。医学的に廃用症候群と呼ばれる状態である。動かさなければ、筋肉、骨、皮膚は萎縮し、関節は固くなり、心臓や肺の力も衰える。普通に歩いていた人も、足の力が落ちれば、杖歩行から車いす生活を経て、ついには寝たきりになりかねない。寝たきりになれば床ずれが起きやすくなり、そこが感染源となって全身状態も悪化する。歩かないと足の静脈に血栓ができる、いわゆる「エコノミークラス症候群」になる。できた血栓が再び流れ始めれば、肺動脈に詰まって肺血栓を引き起こしたり、脳血管につまって脳梗塞をひきおこしたりしかねない。

 宮城県石巻市と石巻赤十字病院の医師らは、18カ所の仮設住宅に入居する計498人を対象に調査を行った。その結果、12人に1人にあたる43人(8.6%)が「エコノミークラス症候群」を発症していることがわかった(読売新聞、12年2月3日)。原因は、不活発な生活による運動量の低下である。

 この現状を見れば、医療・保健関係者がなすべきことは明らかであろう。カウンセリングではない。療養指導である。からだを動かし、適度に疲労し、それを原動力に良質の睡眠を得るよう勧めることである。過不足のない睡眠をとり、三食を規則的にとれば、副交感神経は適度に刺激され、自律神経のリズムも整う。仮設住宅に籠りがちな被災者を極力、外で活動させ、からだを動かし、他者と交流するよう促していきたい。「ヘルシーな生活の意義を説くこと」こそ、今最も求められることであろう。

被災地のニーズに合ったアレンジを

 専門家の間では、「こころのケア」の虚実の乖離は、周知の事実である。「こころのケア」は、「精神保健」を意味する一種のニックネームであり、それを被災地のニーズに合うようにするには、アレンジが必要である。被災者は、言葉でイメージされるような一律の「カウンセリング」を求めていない。

 今後も、「こころのケア」の名の下に多くの予算が付き、数々のプロジェクトも立ち上がるだろう。民間の活力と行政の後ろ盾、縦割りの行政を超える横断的な取り組み、継続的なイベントなどであり、そのさなかで被災者一人一人は、生活の再建へと立ち上がっていく。そんなアクション・プランにつなげるための旗印が「こころのケア」である。

 しかし、誤解してはいけない。必要以上の「お悩み相談」は控えるべきである。むしろ、「からだのケア」こそ優先したい。復興には、長い期間を要する。長丁場を生き抜くための身体の健康を第一に重視せねばならない。そのためには、特別なことは何もいらない。睡眠・食事・運動など、当然のことをおろそかにしないで説いていくことこそ、何にもまして必要である。

◆WEDGE2012年3月号より


 




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