ディープなアジアを
東京・高田馬場で


森枝卓士 (もりえだ・たかし)  フォトジャーナリスト

1955年、熊本県生まれ。大正大学客員教授。国際基督教大学卒業。世界各地を取材、『食べもの記』(福音館書店)ほか食に関する著書を多数発表。週刊「ヤングジャンプ」の連載『華麗なる食卓』の監修も務める。

ちょっと寄り道うまいもの

その地域ではポピュラーでも、よそではピンとこない「ご当地食」は少なくありません。郷土料理はもちろん、全国的に有名な料理や調味料、まちおこしに活用されているB級グルメ、人気の駅弁やお土産・・・・・さまざまな「ご当地食」の中から毎回一品を取りあげ、地域の歴史や文化とともに、その魅力の源をじっくりと紹介していきます。各地の豊かな食文化に得心し、出張や旅行の際に“ちょっと寄り道”したくなる連載です。

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コンニャクがエスニックなサラダになっている。酸っぱくて辛い、アジアの味。微妙にタイ料理のサラダとは違うが、お仲間と思われる味わい。酒が進む。

 日本人にとって、もっと大きな驚きは食べるお茶か。漬物と化した(つまり、発酵させてある)お茶の葉と干しエビや唐辛子、ナッツの類などを好みで混ぜて食べる。新鮮な味わい、刺激であることは間違いないが、東南アジアの料理が嫌いでなければ、面白く受け入れられるはずの味。辛いところをいっぱい食べてしまうと、思わずまたビールに助けを求めることになるが。それも好ましい。

 見慣れたものが、新鮮な味と化している面白さ。純粋に新しいものより、驚きがあり、面白いのではないかと食べながら思う。

 シャンとカチン。

 そう聞いて、ミャンマーを思い浮かべられたら、よっぽどのアジア通だ。シャンはミャンマーの東部、タイ北部と接するシャン高原を中心に住むタイ系の民族。カチンはミャンマーの北部から中国雲南省にかけての地域に住む民族である。

 そのシャン族、カチン族の料理を食べられる店が東京の高田馬場にある。より正確に言えば、高田馬場にこの少数民族を含め、ミャンマー関係の人々と店が集中している。ちょうど、大久保に韓国、池袋駅の北口のあたりに中国関係の店が集中しているように。

 私事だが、東南アジアで食文化に目覚めた。1970年代末、駆け出しのジャーナリストとして戦争や麻薬問題等々取材していて、その食に接した。その土地の人々の食も知らず、政治経済を語っていたことに気付いた。

ノング・インレイと同じビルにある「スカイ・ホーム」。所狭しとミャンマーの食材が並ぶ

 当時の日本には東南アジアの料理の店も本もほとんどなかった。そこで、調べて本を書くようになったのだが、ナムプラやパクチ(香菜)のような食材もなく、何で代用するかと悩んだものだった。

 そんな経験があるものだから、何でも普通にスーパーで手に入る今の状況が信じられない。ましてや、ミャンマー料理ではなく、シャン料理やカチン料理の店が東京にあることが夢のようなのだ。特に今でも訪れることが難しい地域の料理が、東京で食べられることに、時代が変わったと実感するのだ。

 冒頭に書いたコンニャクやお茶の料理はシャンのもの。「ノング・インレイ」といい、駅のすぐそばの雑居ビルにある。客もミャンマー関係の人々が多く、隠れ家というか、物語に紛れ込んだような面白さもたまらない。同じビルにはミャンマー食材の専門店も。「こんなものまで」、「これは何?」がいっぱいで楽しい。

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「ちょっと寄り道うまいもの」

著者

森枝卓士(もりえだ・たかし)

フォトジャーナリスト

1955年、熊本県生まれ。大正大学客員教授。国際基督教大学卒業。世界各地を取材、『食べもの記』(福音館書店)ほか食に関する著書を多数発表。週刊「ヤングジャンプ」の連載『華麗なる食卓』の監修も務める。

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