2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2012年3月21日

 釜石版スマートコミュニティを推進して独自にエネルギーの生産・活用を目指す「スクラム4・創造的エネルギー対策の推進」。三陸縦貫道のインターチェンジ付近を産業用地として活用するなどの企業誘致、新しい産業創出に取り組む「スクラム6・新産業と雇用の創出」。高速道路の整備を進める「スクラム7・三陸交通ネットワークの形成」。水産業の6次産業化などを行う「スクラム8・食を支える地域産業の展開」。新たな商業拠点作りを行う「スクラム9・商業と交流空間の機能的展開」。

 このなかではじめに具現化したのは「企業誘致」だ。3月2日、ショッピングセンターの出店に向けてイオンタウンと協議をはじめたと発表された。07年、遠野市との間に新たに仙人峠道路が開通して以降、土日の釜石市外への流出人口が増加し、地元消費購買率が78.7%(08年度)と県内の市でワースト2となった。「ストロー効果を止めるには、釜石に人が集まる場所を作らなければならない」(野田市長)と、イオン誘致が進められた。

釜石市のメインストリートともいえる県道4号釜石港線。ここに大町商店街もあった。 (撮影:編集部)

 ただし、これは新日鉄、SMCに頼るのと同じ施策でもある。東京の大資本依存は、縮小や撤退リスクを抱える。リスク軽減のためにも不可欠なのは地元産業の振興だ。市内の大町商店街振興組合の小田島圭司理事長は「大型店にはない品揃えをすることで共存を図りたい」と話す。地元商店街の活性化は全国的な地方の課題だ。知恵やビジョンが求められるだろう。

 地場産業の育成で「産業クラスターの核となる企業を育てて行きたい」と、野田市長が期待を寄せるのが、人工関節などの材料となるコバルト合金を生産するエイワだ。大学教授と釜石・大槌地域産業育成センター、地元企業で共同研究を行い、10年に事業化した。

地場産業の育成に軸足を

 「これまではプラスチック事業部に助けられていたが、2月29日にはじめて150キロのオーダーを受けた。これからは受注先も広がっていくはず」(エイワ金属事業部)。地元企業と協力してコバルト合金を使った計測器など最終製品の開発も進めているという。

 釜石商工会議所の和田盛雄専務理事は、こうした「地場産業の育成」にこそ軸足を置くべきと主張する。釜石市の場合、企業城下町だったということもあり「外から産業を誘致する」という意識が根強い。そのため「全国的に有名な企業はあっても、岩手県内を地盤にした有力企業は少ない」。

 例えば、隣の大船渡市には、『かもめの玉子』で知られるさいとう製菓、県内を中心に13店舗のスーパーマーケットを展開するマイヤ、建設会社佐賀組など、岩手県内の有力企業が本社を置く。「外部からの誘致も必要だが、小さくても本社機能を持った企業を町のなかで育てたほうが、結果的に長続きするのではないか」というのが和田氏の考えだ。

 震災後、「長い間、後回しにされてきた」(野田市長)という、三陸縦貫自動車道、東北横断自動車道釜石秋田線の建設が正式に決まった。地元にとっては、「悲願」という気持ちは分かるが、その間、人口が減るなど、当初建設が計画されたときからは環境も大きく変化している。


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