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2012年3月28日

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佐々木正明 (ささき・まさあき)

産経新聞リオデジャネイロ支局長

1971年岩手県生まれ。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)卒業。産経新聞社に入社、神戸総局、横浜総局、大阪本社社会部等を経て2014年10月までモスクワ支局長。著書に『シー・シェパードの正体』(扶桑社新書)、『恐怖の環境テロリスト』(新潮新書)

 その1人が、モンキーレンチの入れ墨を入れたハーパーという男だった。ハーパーは、FBIが「エコテロ団体」に認定しているSHACの犯行に加わったとして、2004年に逮捕。有罪判決を受けた。SSや他のエコテロ団体「地球解放戦線」(ELF)の活動にも関連したことがあり、環境保護活動家の間で、その名はとどろき渡っていた。彼は自らを「グリーン・アナーキスト」と名乗って、地球保全のために自然を破壊することに立脚する人間社会を一度、無にしなければならないという危険な教義も主張していた。

追い込みイルカ漁が行われる入り江のまわりには英語で立ち入り禁止の看板が掲げられていた (2011年9月28日)

 ハーパーは2010年に刑期を終え、釈放されていた。親交のあったレイはさっそく、ハーパーと手を組み、SSのキャンペーンやビーガン生活をアピールするインターネット番組を始めていたのである。

 レイは、米国のパスポート1つで何のお咎めも受けず、自由に祖国と日本を行き来できる。前篇の項で冒頭にお伝えしたオランダ人男性の暴行事件でも、男性を支援するためにシアトルから訪れ、一緒に行動を共にした。「モンキーレンチ」の世界にどっぷりとはまり、日本で刺激的な事件を起こす恐れもあるのに、彼の入国や太地町での活動を未然に抑止することは現行法ではできない。

日本は環境テロの専門家が圧倒的に少ない

 オーストラリア沖の日本船乗り込み事件とレイにまつわるケースで共通するのは、日本政府や治安機関に、環境テロリズムを専門的に分析できる人物が圧倒的に少ないことだ。調査捕鯨を担う水産庁や捕鯨船を警護する海上保安庁でさえ、「フォレスト・レスキュー」がどんな団体で、何を資金源として持ち、活動家がどんな素顔を持つかを体系的に分析できる担当者は皆無に近かった。

 そして、コーヴ・ガーディアンズをマークする和歌山県警や警察庁でさえも、太地町を訪れる世界各国の活動家のバックグラウンドをなかなか把握できていない。これはやはり、活動家たちが外国人であり、彼らのクリミナル・リコード(犯歴)を外国捜査機関に照会するのに時間がかかること、そして、活動家自身が複数の団体に属している関係で、彼らがどの団体の構成員なのかはわかりにくいことなどが背景にある。

 前述の地球解放戦線やSHACを締め出すために、米国や英国では2000年代に反エコテロ法を制定して、彼らが過激な破壊工作を繰り出せないよう厳しい法規制をしいた。あらたな“武器”を得た両国の治安当局は中枢の活動家を検挙していったのだが、その取り締まり強化は、第二次大戦直後に西側諸国で行われた共産党主義者の排除運動「赤狩り」になぞらえて、環境保護系・動物愛護系の原理主義者を洗い出す「緑狩り」と呼ばれるほどだった。

被害拡大阻止の有効策は?

 法規制が脆弱で、エコテロ被害の実態が広まっていない日本は、彼らの新たな標的の地。エコテロの種は確実に、日本でも蒔かれており、覚醒した日本人環境テロリストの誕生もすぐ近くまで迫っていると私は考えている。実際、和歌山県太地町にもSSの活動を支援する日本人がおり、南極海調査捕鯨妨害キャンペーンでは、毎年、日本人がSS抗議船に乗り込み、南極海に出向いている。

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