安保激変

2012年4月5日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター日本部長

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

 日本の首相の国際会議の出席がアメリカで話題にならないこと自体は、それほど珍しいことではない。一昨年の第1回核安全保障サミットは、開催地がワシントンDCであったにもかかわらず、当時の鳩山由紀夫総理の動向は全くと言っていいほど話題にならなかった。昨年のG8サミットの際も、菅直人総理が演説をした翌日のワシントン・ポストで日本関連の記事として掲載されていたのは、福島第一原子力発電所の事故の後、地元が如何に苦労しているかに関する記事だった。

 唯一の例外は小泉純一郎総理である。彼が任期満了近い06年6月にブッシュ大統領との首脳会談のためにワシントンを訪れたときは、ワシントン・ポスト紙の文化・芸能情報を扱う「スタイル」という欄で、小泉総理がエルビス・プレスリーのファンでグレースランドを訪問したことや、晩餐会に誰が出席したかなどが大きく報じられた。

 それ以外では、日本の総理がワシントンを訪問したときですら、外交欄にあまり目立たない記事が掲載されるぐらいだ。そのため、韓国で開催された国際会議での日本の総理の発言が注目を集めなくても、ある意味、当たり前といえば当たり前だ。

事故の教訓を発信する絶好の機会だった

 それでも、今回、核安全保障サミットで日本の存在感が希薄なままに終わったのは非常に残念なことだった。東日本大震災から1年が経過し、福島第一原子力発電所の事故の対応から貴重な教訓を得た日本が、その教訓について首脳レベルでメッセージを発する絶好の機会だったからだ。

 日本では原子力発電所の事故というと、周囲の地域・大気への放射能汚染や、事故により避難を余儀なくされた人に対する補償問題などに関心が向きがちだ。

 もちろん、事故を起こした東京電力は批判されて然るべきだ。しかし、ちょっと見方を変えてみてほしい。原子力発電所の事故は天災が原因で起きるとは限らない。原子力発電所にテロリストが潜入し、意図的に事故を発生させるリスクはゼロではない。サイバー攻撃により原子炉を制御するシステムが作動しなくなる危険性だってある。

 事故の原因が何であれ、発生した事故にどのように対応し、放射線による被害を最小限に食い止めるか、という課題は共通のものだ。言うなれば、原子力発電所の事故は、その結果として起こる事象が国家の安全に重大な影響を与えるため、国家安全保障の観点から見ても重要な課題であるはずだ。

原発対応も広義では「核の安全保障」

 原子力発電所の安全、という課題について福島第一原子力発電所の事故から日本は何を学んだのか。そして、日本はその教訓をどのように国際社会と共有し、世界各国が原子力発電所の安全を確保する努力を続ける中での役割を果たしていくのか。「核の安全保障」というと、核兵器の不拡散は核兵器テロの防止、というハードな安全保障の問題が重視されがちだが、実は民生の原子力発電所の安全や事故後の対応も広義の「核の安全保障」に含まれてもおかしくない。むしろ、「核の安全保障」というからには、原子力発電所の安全確保のような問題もきちんと議論しないと、ハードな安全保障問題だけに特化したいびつな議論になってしまう。

 日本は昨年の事故の教訓の上に立ち、原子力発電所の安全基準の見直しの国際的努力を牽引していく――。

 今回の核安全保障サミットで日本がこのようなメッセージを「フクシマの教訓」と共に発したなら、国際社会でも一目おかれただろう。

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