WEDGE REPORT

2012年4月20日

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渡邊頼純 (わたなべ・よりずみ)

慶應義塾大学総合政策学部教授

上智大学文学部哲学科卒業、同大学院国際関係論専攻博士課程修了、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部、GATT事務局、外務省経済局参事官などを経て現職。

 新たな世界秩序が構築されようとしている今、日本はTPPに積極関与し、ルール作りに参画すべきである。国際貿易体制の転機にあって、今日の日本は国際ルール作りに貢献できる国家なのかどうか、そのあり方が問われている。

 交渉入りに向けた事前協議では、各国間の交渉で対立する部分も挙がってきており、交渉日程も延びそうな状況が次第に明らかになりつつある。タイミングとしても日本がルール作りに参画できる余地はある。

 また、強大な米国が主導する実態に、途上国は不安を持っている。マレーシア、ベトナムなどは、そこに日本が入ってくれることによって、米国との間である種の利害調整を果たしてくれる存在として、過去に繊維交渉や自動車交渉などで米国との交渉の実績のある日本のリーダーシップに期待している。

日本がもつ交渉ノウハウ

 これまでも日本は伝統的なFTAにはなかった様々な「新分野」をEPA(経済連携協定)交渉の中に盛り込んできた。その一例が「ビジネス環境整備」である。

 ここで言う「ビジネス環境」とは、「一方の(EPAの)締約国に進出したもう一方の締約国の企業が事業を行う際におかれている環境」を広く意味する。日本政府は活発に海外展開する日本企業の事業を支援するために、EPAを通じた貿易投資面での障壁撤廃だけでなく、広い意味でのビジネス環境整備を相手国政府と共に推進する必要を感じていた。

 実際、海外に進出している日本企業からは様々な問題点が指摘されている。主なものを挙げると、1進出先政府による法令の頻繁にして突然の変更、2行政手続きが不透明で複雑、3産業インフラの未整備、4治安の悪さ、5知的財産の侵害、6中央と地方で制度やルールが異なること、等がある。このような問題は治安の改善や中央・地方の対応の違いがそうであるように、国内のガバナンスという微妙な問題に触れる問題であり、必ずしも経済協定であるEPA本体に規定することになじまないイッシューである。

 そこでEPAの中の「ビジネス環境整備章」の登場となるわけだが、具体的には図をご覧頂きたい。「ビジネス環境の整備に関する委員会(あるいは小委員会)」を設置し、両締約国におけるビジネス環境に関する問題点を提起し、その改善方法や手段について協議した上で、相手国に対し所見を報告し、改善を勧告、さらにその勧告の実施状況について検討することになっている。

 この委員会には、両締約国の政府関係者の他に、必要に応じ産業界や関連団体を招くことが可能となっており、民間企業にとっては相手国政府の代表に直接その声を届ける機会となっている点が他国のFTAなどにないユニークさになっている。このような官民協力の枠組みをTPP交渉においても積極的に日本案として提案していくべきだ。(筆者監修、外務省経済局EPA交渉チーム編著、『解説FTA・EPA交渉』日本経済評論社、314─315頁参照)

途上国市場への参入促進

 EPA交渉で日本が身に付けた「交渉ノウハウ」は他にもある。サービス交渉もその一例である。WTOのサービス交渉では、締約国が特定の約束をするサービス分野を決めておき、その分野について、自国が協定上の義務(市場アクセス、内国民待遇など)との関係で、サービス貿易の4つの形式(越境取引、海外におけるサービスの消費、拠点を通じたサービスの提供、自然人の移動によるサービスの提供)のそれぞれについて、具体的にどのような約束をするかを特定し、それを「約束表」に記載する。ポジティブに約束できる分野を特定することから「ポジティブリスト方式」と呼ばれている。

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