容認と警戒が交錯
活発化する中国でのTPP論争


渡邊頼純 (わたなべ・よりずみ)  慶應義塾大学総合政策学部教授

上智大学文学部哲学科卒業、同大学院国際関係論専攻博士課程修了、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部、GATT事務局、外務省経済局参事官などを経て現職。

日本再生の国際交渉術

TPPだけでなく、あらゆる通商政策の交渉において、日本が抱える問題点。柔軟でしたたかな戦略的経済外交を展開していくために必要な術を、かつて日本・メキシコ経済連携協定(EPA)交渉にも深く関わった、慶應義塾大学総合政策学部・渡邊頼純教授が教えます。

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TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は日本にとって今年最大の対外経済政策上の課題である。日本は戦後一貫してGATT(関税と貿易に関する一般協定)をベースにした多国間貿易体制のもとで輸出を伸ばし、貿易立国として今日の繁栄を築いてきた。

TPPは広域FTAの先駆け

 しかし、そのGATTの後継組織であるWTO(世界貿易機関)の多国間貿易交渉である「ドーハ・ラウンド」は11年交渉しても終結せず、今や完全に凍結された状態にある。しかも日本は2011年度これまで最大の4.4兆円の貿易赤字を計上、GDPにおける貿易依存度もOECD(経済開発協力機構)加盟30カ国中下から2番目となり、もはやとても「貿易立国」とは呼べない状況にあると言わざるを得ない。

 多国間体制で貿易交渉ができず、日本の貿易が相対的に勢いを失いつつある現状でわが国は官民挙げて対外経済政策を立て直す必要に迫られている。そこで重要性を発揮するのがFTA(自由貿易協定)に代表される地域経済統合の動きである。我が国も2002年11月発効の「日シンガポール新時代経済連携協定」を皮切りに今日まで13の国・地域と日本版のFTAであるEPA(経済連携協定)を締結してきた。まさに21世紀の通商戦略として日本もこの10年間にEPA交渉を活発に行ってきたわけだが、その延長線上にTPPがあると考えるべきである。

 これまでの日本のEPAはいわば「第一次世代のFTA」であり、日本と相手国という「点」と「点」を結ぶ「線」と言える。これに対し、TPPはアジア太平洋域内に40件ほど存在する様々なFTA・EPAという「線」からなる「面」である。これからはTPPや、あるいはASEANプラス6(日中韓豪NZ印)、日中韓EPAなど広域のFTAがより大きな重要性を持つようになる。その意味で現在は「第二世代FTA」の時代に入っている。その中でも唯一交渉が実質的に進展しているTPPは日本にとっても最重要課題であることは間違いない。

中国・韓国はTPPに参加しないのか?

 TPP交渉参加に反対する人々の論拠の一つに、中国や韓国が入っていないTPPでは「アジアの活力を取り込む」ことにならない、という議論がある。しかし、その議論はTPPのメンバーシップが本質的にはAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の21にも及ぶ参加国及び地域に開かれていることを踏まえておらず、誤った結論を導出している。確かに現時点では中韓両国はTPP参加の意向を明らかにしていないが、そのことが未来永劫参加しないということにはならない。

 韓国はすでにアメリカとのFTAを発効させていることに加えて、オーストラリアともFTA交渉を間もなく完了すると言われている。ASEANともFTAがあることから、急いでTPPに参加しなくても問題ないと考えている。むしろ韓国がTPPに入る姿勢を見せることで日本を刺激して、日本がTPP参加を急ぐような状況を作らない方が、対日競争上韓国企業にとって有利であると考えているだろう。日本のTPP参加は韓国にとっては自らがFTA戦略で獲得したアメリカ市場や豪州市場における特恵マージンを陳腐化させることに繋がるからである。韓国がTPP参加を決断するのは、日本が参加し、さらに中国や台湾が参加することになった段階と予想される。しかし、その場合でも韓国にとってTPP参加のハードルは決して高くない。

 そうなると問題はやはり中国である。結論から言うと、筆者は中国も遅かれ早かれ、いつかはTPPに参加したいと表明する時期がくると考えている。以下ではそう考えるに至った理由を述べてみたい。

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「日本再生の国際交渉術」

著者

渡邊頼純(わたなべ・よりずみ)

慶應義塾大学総合政策学部教授

上智大学文学部哲学科卒業、同大学院国際関係論専攻博士課程修了、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部、GATT事務局、外務省経済局参事官などを経て現職。

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