日本再生の国際交渉術

2012年4月24日

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渡邊頼純 (わたなべ・よりずみ)

慶應義塾大学総合政策学部教授

上智大学文学部哲学科卒業、同大学院国際関係論専攻博士課程修了、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部、GATT事務局、外務省経済局参事官などを経て現職。

 さらに李院長は、日本は野田政権になってから日米関係強化に大きく傾斜するようになっており、TPPを優先しようとする姿勢もその一環である、このような動きが東アジアにおける日和見主義をさらに誘発するとし、「日本はTPPと東アジアFTAのどちらにプライオリティーを置いているのか」とあらためて問いかけた。

 このようにTPP容認論と警戒論とが活発に交錯しているのが中国におけるTPP論議である。いずれにせよ一つはっきりしていることは、中国も真剣にTPPの戦略的意味や貿易投資に与える影響を検討し分析しているということである。したがって、日本も中国は絶対にTPPに入らないから中国抜きのTPPに参加する必要はない、といったナイーヴな反対論は排除して、中国が将来参加することも可能性として盛り込んだTPP交渉のあり方を議論すべきである。そのためにも、TPPのルールづくりを日米主導で行っていくべきである(WEDGE5月号「TPPにチャンスあり 日本はルール作りを主導できる」参照)。

 また、交渉のタクティックス(戦術)の観点からは、TPPでアメリカを主たる交渉相手とする日本にとって、ASEANプラス6や日中韓FTAなどで中国と渡り合うこと自体が交渉上の「アセット(資産)」である。同時にTPPで時には途上国連合の主張を日本がまとめて、アメリカと対峙し、自らの市場アクセスを改善し、ルール作りに奔走することは、これもまた日本にとって東アジアFTA交渉上のアセットとなる。そうなれば日本は、東アジアFTAを交渉する局面においては存在感のあるリーダーとしての役割を期待されるだろう。

 日本にとって最も不幸なのはTPPか東アジアか、あるいはアメリカか中国か、そのどちらかを選択しなければならないような状況に置かれることである。そもそも安全保障とは自国の繁栄と威信を維持強化するための「行動の自由」が確保されている状態をいう。どちらかを選べという考え方はそもそも狭隘で、「行動の自由」を束縛するものである。TPPに積極参加することで東アジア市場統合において主導権を発揮し、東アジアにコミットすることによりTPP交渉で存在感を示す、したたかにして厚みのある外交戦略が今我が国に求められている。そのような外交の実践に国民の理解とサポートが必要なことは言うまでもない。


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