2024年4月24日(水)

Wedge REPORT

2012年4月27日

 同様の理由で法的整理論も退けることができる。確かに賠償責任を債務として認識すれば東京電力が実質的な債務超過であることは自明であるが、本当の債務超過にしてしまえば資金調達が不可能となってしまう。

 その問題は政府も正しく認識しており、今の仕組みでは賠償債務の事実上の分離により債務超過の回避が図られている。債務超過を回避させて東京電力の資金調達能力を維持させることが政府支援の目的であるから、法的整理はあり得ない。

 逆にいえば、もしも法的整理を行い債権者に損害を与えるとしたら、法律に定められた政府支援を前提として融資していた銀行や社債を保有していた投資家の法律上の保護されるべき期待を裏切り、合理的予見可能性を否定することで資本市場の秩序を破壊することになる。断じてあり得ないことである。

 政府支援の本来あるべき形は、東京電力が独自の資金調達ができなくなっている理由を取り除くことである。第1は短期資金繰りの支援、第2は賠償債務の分離であるが、2つとも今の政府がきちんと対応している。第3が長期資本の調達が可能になるための条件整備であり、ここが問題なのだ。

 長期資本調達の最大の障害になるのは、民間企業としては負担し得ない不確実性の存在、即ち長期についての予見可能性がないことである。特に、無限責任のもとで予測不能となっている賠償債務と、技術的に予測不能となっている事故を起こした原子力発電所の廃炉費用が重大な不確実性である。

 そうであれば、政府は、支援の方法として、東京電力の賠償責任に上限を設け、それを超えるものを政府の直接補償にすることと、廃炉費用の政府負担の2つを行うべきなのだ。つまり、東京電力の資金調達の障害となっている不確実性を政府へ吸収することで、東京電力の自立を図って電気事業の継続を確かなものにし、もって損害賠償履行と電気の安定供給という社会的責任を全うせしめること、これこそが法律の趣旨である。

政府の介入は違法ではないか

 確かに国有化によっても同じ効果は得られるかもしれない。しかし、独立した民間の電気事業者の収益性により賠償原資を創出するという法律の想定に反する。政府出資は東京電力の経営正常化のための必要最低限の資本補強にとどまるはずだ。民間事業の収益性を活かすからこそ政府のいう「国民負担の極小化」が実現するのである。国有化によって国営事業の収益性で賠償原資を作るのは、国民負担の極大化になる危険をはらむであろう。

 こうした不当な政策を糺すためには誰が何をすべきか。できることの1つは、政策の誤りによって不当な損失を受けたものが、その損失の賠償請求を政府に対して行うことである。では不当な損失を受けているのは誰だろうか。

 私は不当な損害の可能性として4つの主体を考えている。第1は当然だが株主。第2は政府の定めた枠組みのもとでは賠償額が不十分であると主張する被害者。敢えて東京電力ではなくて政府に補償請求できるかが論点となる。第3は処遇の悪化した東京電力の従業員。待遇がよすぎた面もあり社会的状況に鑑みて適正化したにすぎないといえるのか、労働法等に照らし不当な扱いがないのかが論点になる。第4は企業年金の年金受給者の給付減額をした場合の受給者。法律的に厳しい受給者の給付減額の要件を充足しているのかが論点となる。

 誤解しないでいただきたい。私は東京電力の株主や従業員・退職者の利益を擁護しているのではない。法律の趣旨が踏みにじられていくときは、国民は何かをすべきだ。まずは政府の誘導に引っ張られることなく冷静な批判精神をもって事実と法律を見つめ直すことだ。訴訟は最後の砦だが、世論の転機にもなり得よう。

 賠償支援が目的ならば政府が東京電力の経営権を握る必要はない。法律が政府支援目的を賠償支援に限定している以上、その目的以外の理由で東京電力の経営に不当に介入することは行政裁量の域を超え違法である。政府の意図に電気事業改革を含むなら、政府は、こともあろうに原子力事故を利用して東京電力を不当に国有化し、国民負担を曖昧にしたままで、政策を実行しているのである。東京電力を盾にして政策の欺瞞を隠そうとする政府のやり方にこそ、国民は批判の目を向けるべきだ。

◆WEDGE2012年4月号より

 

 

 

 

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