あの挫折の先に

2012年5月7日

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夏目幸明 (なつめ・ゆきあき)

ジャーナリスト

1972年、愛知県生まれ。愛知県立豊橋工業高校から早稲田大学へ進学、卒業後、広告代理店に入社し、その後、雑誌記者へ。小学館『DIME』に『ヒット商品開発秘話 UN・DON・COM.』を、講談社『週刊現代』には、マネジメントの現場を描く『社長の風景』を連載。ほか、明治学院大学講師をつとめ就活生の支援を行う。『資格の学校TAC』では、就活生と一緒にエントリーシートを書き、面接練習を行う講座を持つ。
執筆記事:「社長の風景」(現代ビジネス)、「火力発電所奮闘記」(『VOICE』)、「ビジネスの筋トレ」(『フレッシャーズ』)、「就職活動セミナー」(『資格の学校TAC』)

第1回 『キユーピー具のソース』 開発者
キユーピー株式会社 渡辺智子さん(36)

わたなべ・ともこ/商品開発本部 フードサービス開発部 戦略チーム。
両手に持っているのが、自身が開発したヒット商品『キユーピー具のソース』。

 本来は、商品開発本部でコピーをとったり、資料を集めたりする事務職員として入社したはずだった。しかし、渡辺は入社直後から、歴戦のマーケッターに自分なりの疑問や考えを伝え続けた。

 「生意気だったと思います。商品のパッケージのレシピ例を作っている同僚に『お休みの日にそんな面倒な料理、主婦は作りませんよ』なんて言ってました。場合によっては上司から『ゴチャゴチャ言わずにやることやれ!』と言われてもおかしくなかったでしょうね」

 だが彼女は、自分が感じたことを、ただ言い立てていたわけではなかった。

与えられた以上の仕事を10年間、
地道に続けて巡ってきたチャンス

 「実はコピーをとる時、書類の中身にも必ず目を通して、例えば“今や揚げ物は家で揚げるものでなく、スーパーで買うもの”とか“一人暮らしの女性の中には、包丁を持っていない方も多い”といったデータを見ていました。興味があったんです」

 彼女の私見は、いつしか“貴重な女性の意見”として男性の上司などに重宝されるようになっていった。事務職員と総合職の垣根を越え、役に立っていた。

 「企画案を出しても、客観的なデータが足りず、案を通せなかった先輩に『こんなデータを見つけました!』なんて出したりしていました」

 彼女は10年間、そんな仕事を続けた。結果、上司に認められ、社内の『マーケッターアワード』という新商品の案を出し合うコンテストに企画書を出すよう勧められた。この時考えたものが『具のソース』の原案だった。

 「例えば、仕事終わりにスーパーで揚げ物を買って帰ったものの“そのままお皿に並べて出すのは家族に悪い”と思っている女性が多かったんです。そこで“具だくさんで、かけるだけでごちそうになるソースがあればいいのに”と思ったんですね」

主婦の心をつかみ、年間8億円の大ヒット

 女性が忙しい時代だ。駅ナカに、内装がオシャレでパッと食事が摂れるお店が増えているのも、以前は男の聖域だった“立ち食いそば”を女性向けにしたもの、と言える。彼女のプレゼンは、見事にマーケットの動向を捉えていたのだ。

 いち事務職員の案は、コンテストで最優秀賞を受賞。その後、商品化する運びとなり、大ヒットに至った。発売後、主婦の支持を集め、売り上げは年間8億円という強気の予想の1.5倍を記録した。

 「社内で“自分”を出していくのって恥ずかしいことだと思うんです。でも、私は自分がやりたいことを伝え、アイデアも出し続けました。商品開発ができるようになったのは、その結果だと思います」

POINT
◆大きな仕事を任せてもらえない時は?
「私にはできる!」という気負いがあったとしても「実績」がなければ任せてもらえない。そして「実績」は、自分が誇るものでなく、周囲が認めてくれるものなのだ。
渡辺氏は「やっておいて」と言われた仕事を終えればOKと思わず、先輩や上司の立場で必要なことがあれば何でもやった。彼女が話す。
「相手が何で悩んでいるか、何をしたらうれしいか、想像力を働かせることって大事だと思いますよ」
彼女が社内で認められたのは必然だった。なお彼女は、事務職員の頃から、休日に食品業界のセミナーなどへ出席するなど、準備を怠っていなかった。

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