ヒットメーカーの舞台裏

2012年4月30日

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池原照雄 (いけはら・てるお)

ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

 頭皮専用の電動エステ機器で、シャンプーする時に使う。エステサロンでは「ヘッドスパ」という頭皮をケアするサービスの人気が高まっており、家庭での入浴中にも手軽にできるよう開発した。2011年4月に発売し、初年度の販売は計画比4倍の20万台となる見通しだ。女性向けに商品化したが、購入客の約3割を男性が占めるという予想外の反響ももたらした。4月には皮脂洗浄効果を訴求した男性向けバージョンも投入する。

パナソニック 頭皮エステEH-HE93

 本体は片手に収まるサイズであり、上部のホルダーを指で挟んで使う。底部には4本の突起があるシリコン製のブラシが4個あり、モーターで各ブラシが振動しながら回転する。完全防水の充電式であり、バッテリーは1日4分使用しても、7日間使える容量をもたせている。実売価格は1万3000円前後。開発に着手したのは07年度で、パナソニックのアプライアンス社ホームアプライアンス事業グループのビューティ商品企画チームに所属する清藤美里(34歳)が担当した。きっかけは、04年からヘアケア関連の商品企画に従事していた清藤が、同社の高額なヘアドライヤーの好調な売れ行きに関心をもったことだった。

 このドライヤーは「ナノケア」シリーズとして05年に発売したもので、髪の水分バランスを整える微粒子イオンを発生させる装置が付いている。従来のドライヤー単価の約7倍に相当する2万円前後なのに、ロングセラーとなった。清藤は購入客が「美容に対してどのような意識をもっているのか」と興味をひかれ、追跡調査をすることにした。

 面接などの調査から導き出されたのは、ユーザーが髪に対して、「本質的なケア」あるいは「内側からのケア」を求めているということだった。だが、余りに抽象的な表現であり、新たなヘアケア商品につながる発想には至らなかった。清藤は、美容業界のトレンドや関係学会の発表論文などにもリサーチの手を広げた。その過程で得たのが「頭皮ケア」というキーワードだった。

頭皮も肌と同じなのに
ケアがおろそかにされている

 07年度からは研究開発部門とともに調査および開発を進め、翌年にはプロトタイプの機器を製作してみた。しかし、余りにサイズが大き過ぎるなど事前評価は芳しくなく、商品化は断念せざるを得なかった。それでも清藤は諦めようとはしなかった。09年になると、美容業界ではヘッドスパというサービスが定着し始めた。今回の商品開発で協力を仰いだ女性の美容研究家との出会いも、清藤を前に進めた。

 この先生の持論は「頭皮も肌と同じなのに、肌に比べ、余りにもケアがおろそかにされている」ということだった。髪を植物に例えると、地肌は土壌であり、土壌を耕して柔軟にしなければ元気な植物は育たないという比喩も聞き、納得した。

 企画案が承認され、本格開発が動きだした。エステの技術ももつ先生からは、製品での再現をめざした指の動きや圧力のかけ方などでアドバイスをもらった。シャンプー時の頭皮ケアの施術は、左右の中指と人差し指の4本で行うのが効果的とされている。この商品の4本のブラシは、それを模したものだ。プロのエステティシャンの技法を参考にしたその構造と動きは「フォーフィンガースパイラル機構」と名付けられた。

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