2024年4月20日(土)

渡辺将人の「アメリカを読む」

2012年5月2日

不法移民取り締まりの厳格化を睨んだ
ヒスパニック系カード?

「ロムニーとは違うバックグラウンドのより若い誰かと組むのではないか。例えば、ポール・ライアン下院議員、マルコ・ルビオ上院議員、そして注目しておかねばならないのは、ニューメキシコ州のスザナ・マルチネス知事だ」

 ギジがこのように指摘したマルチネス知事は全米初の女性ヒスパニック系知事で、元検事として不法移民に厳しいことがポイントだ。私は2011年夏にニューメキシコ州に取材でしばらく滞在したさい、マルチネスの右腕の同州のサンチェス副知事にインタビューを行い、マルチネスが台頭する背景を探った。メキシコ国境のサンベルト地域にはヒスパニック系コミュニティ内に、後発の不法移民への苛立ちという「内部分裂」がある。共和党はこの分裂に乗じて、民主党優位のヒスパニック票を切り崩す戦略だ。この詳細については『WEDGE』(12年4月号)の書評ページ(=「新刊クリップ」)でも紹介していただいた拙著『分裂するアメリカ』(幻冬舎新書)に書いたが、案の定ギジともこの話題で意気投合した。

 ギジによれば、ヒスパニック系政治家だからこそ、不法移民に厳しい対策が言えるという。「ニューメキシコ州のサンチェス副知事には私もインタビューしたことがある。彼らはきわめて保守的だ。(10年の中間選挙では)ラチーノあるいはヒスパニック系からは5人が共和党員として連邦議会で下院議員になったが、ルビオのように上院議員になった者もいる。彼らは皆、移民に実に厳しい。彼らが主張していることのいくつかを、私やあなた(筆者渡辺)が言えばレイシスト(人種差別主義者)と言われてしまうだろう。彼らはアリゾナ州法も大好きだ」 

 しかし、共和党には死角もある。一方で移民に厳しくすればサンベルトの白人票には効果的だが、他方でヒスパニック系への誤ったメッセージとなることもある。ひいてはヒスパニック票をリスクにさらす。ギジも「犯罪や違法行為を問題にすれば、まずは国境警備が第一で、既に入国している移民の問題は別に扱われるべきだ。しかし、このやり方で理解を得るのはおそろしく困難だ」と述べる。

払拭されたかに見えるモルモン問題

 サントラムを副大統領候補に選ぶ可能性はないのだろうか。ギジは次のように述べる。

 「ライバルを副大統領候補に選んだ強いリーダーもいる。フランクリン・ローズベルト、ジョン・F・ケネディ、ロナルド・レーガンらだ。しかし、過去の私の経験から観察すれば、本人が強く副大統領候補になりたがっていて、なおかつロムニーと均整が取れる人物が、今回の予備選の候補者には見当たらない。ニュージャージー州のクリス・クリスティ知事、バージニア州のマクドネル知事は、双方ともにローマカトリック教徒だが、1964年以来ローマカトリック教徒は、共和党の候補になっていない」

 ロムニーのモルモン信仰については、さほど大きな問題ではないというのがギジの見方だが、ギジの「ヒューマンイベント」誌は保守系の雑誌であり、発言の重みはある。

 「アメリカは今まで数々の障壁を乗り越えてきた。私の青年期にケネディが当選したとき、母にこれでお前も大統領になれる、と言われたのを覚えている。それまでカトリック教徒は大統領になれなかったからだ。 ユダヤ系ではコネチカット州選出のジョー・リーバマンがあと一歩で副大統領になるところだったし、今黒人大統領を抱えている」

 ギジの勘では、モルモン教徒の割合は人口比率できわめて少ない一方で、神学的に問題だと言うキリスト教徒もいるにはいる。しかし、経済が現在のように最悪のときには、さほど重要ではないことを認識しなければならないという。


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