2024年4月18日(木)

Wedge REPORT

2012年5月8日

 背景には、米国基準は欧州市場で認められる一方、欧州基準は米国市場では認められないという、非対称な扱いに対するEUの不満があった。EUは、05年から域内企業の連結財務諸表にIFRSの適用を義務化したことを契機に、域外企業に対してもEU資本市場における資金調達に関してIFRSもしくはそれと同等の会計基準の適用を求め、それまで相互承認していた日米の域外基準に対しても「同等性評価」を実施することとした。もし同等と認められない場合には、相互承認を取り消して、IFRSによる補完情報を求めることとした。

 この動きに対して、日米ともに自国の会計基準とIFRSとのコンバージェンスを積極的に進め、IFRSと同等との評価を得た。一方、米国市場において海外企業のIFRS使用が認められるに至っている。ここで本来のEUの目的は達成されていたのである。

日本はどうすべきか

 日本国内ではいまだに「IFRSを導入しないと世界から仲間外れにされる」「世界100カ国以上で適用されているIFRSを適用しないと、日本は取り残されてしまう」「だから全上場企業に強制適用すべきだ」という意見が聞かれる。しかし、これは現状認識としても採るべき国家戦略としても間違っている。

 IFRSのアドプションから距離を置いているのは米国だけではない。05年にアドプションを宣言していたはずの中国はコンバージェンスを明言している。インドは改良版IFRSを作ったが、IASBから批判されるほどカーブアウト(適用除外)が多く、しかもその導入を延期している状況だ。アドプションを行ったカナダも、従来使用してきた米国基準を残しているし、中小企業向けの国内基準も別途策定している。

 IFRSをアドプションするということは、他の地域の会計基準を受動的に取り入れるということである。それならば、もっと大国化した中国に中国基準を丸呑みしろと言われたら唯々諾々と受け入れるのか、ということを想像してみればわかりやすいだろう。

 「IFRSを導入しないと世界的な資金調達がより難しくなる」というのもおかしい。中国がコンバージェンスと言った途端に投資家が離れたかといえば、そんなことはない。日本基準も同等性評価は得ているのだから、資金調達の可否は、会計基準よりも、圧倒的に経営そのものの問題なのである。

 TPPなどに参加し、グローバル経済に積極的に関与していくことと、IFRSを強制適用しないことは矛盾しない。日本はこれまでもIASBの活動に多額の資金を提供し、人材も出してきた。IFRSの動きとは無関係に、日本独自の路線を突き進むというのは、もちろん得策ではない。高品質で比較可能性の高い会計基準を開発するというIFRSの目的に適い、かつ日本の国益にも資するコンセプトの提案やルールメイクを、これまで以上に積極的に行っていくべきだ。そのためには、理論的な意見発信力をもっと高めていく必要がある。

 各企業は、会計基準に関する議論の行方を注目していることだろう。現代のIT化された社会だからこそ、企業としてできることは、取引記録に基づいた経営管理にも役立つデータベースをきちっと作り、そこから情報をピックアップできるようにしておくことだ。そうすることで、基準がどんなものに変わろうとも、それに対応して変換することができる。「IFRS完全準拠基幹システム」というような、基準が変わるたびにシステムに大きく手を加えなければならないものを導入するのは、企業として賢明とはいえない。

◆WEDGE2012年5月号より

 

 

 

 

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