2024年4月20日(土)

変わる農業 変わらぬ農政

2012年5月8日

 しかし、輸入品と国産品は激しく競争した。価格引上げにより食料消費は当初減退したものの、生産者の増産意欲を高め、巨大な余剰を生むことになった。この余剰が市場価格を最低保証価格以下にまで抑圧すれば、公的在庫として最低保証価格(介入価格)で買い上げて市場価格をそれ以上の価格水準にまで引き上げ、さらに余剰在庫を削減するために補助金を付けて輸出した。

農産物輸出国としての地位を確立したEU

 EUは輸出補助金による余剰処理と介入価格での余剰買い上げによる価格支持の二つの施策により、財政負担が増大した。CAPのEU予算全体に占める割合は、60~70%と最大シェアを占めた。現在でも40%程度といわれる。補助金による輸出振興に対して米国、豪州、輸出途上国など他の輸出国から強い批判があり、これがウルグアイ・ラウンド貿易交渉開始理由の一つである。

 しかしこの間、EUは着実に農産物輸出国としての地位を確立していった。関税および貿易に関する一般協定(GATT、ガット)のルールが緩やかだったことを最大限活用したからである。

 EUは最初の30年間、保護農政という意味で日本と変わらなかったが、1992年以降の急激な改革実施により、輸出国型農政に転換し、内向き志向の日本農政とは別の道を歩むことになった。

後期CAPで「ルビコン河を渡る」

 EUは92年、それまでの高価格支持政策から、最低保証価格(介入価格)を引き下げる「マクシャリー改革」を断行した。メンバー各国はこれをローマ時代の故事に喩えて、「ルビコン河を渡った」と称した。

 EU農政を“輸出国型農政”に転換させる歴史的決断だった。すなわち、基準市場価格(境界価格)を大きく引き下げた。例えば、穀物価格が30%、牛肉価格が15%引き下げられた。この結果、農家所得は大きく減少したが、10%減反を条件に、財政支出による直接支払によって補填した。

 この改革によって関税引き下げが可能になり、進行中のガット・ウルグアイ・ラウンド貿易自由化交渉が一気に合意に向かった。改革はある意味で市場の変質を追認するものであったが、ガット協定によって輸出補助金に制限が設定され、貿易歪曲的政策の修正が進展した。最も厄介な市場アクセス改善(関税引き下げ)への対応が可能になったことにより、EUは多国間農業貿易交渉で防御的姿勢から攻撃的姿勢に転ずることが可能になった。

輸出補助金全廃の方向の中で日本は……

 日本が輸出振興を検討する際に留意すべき点は、EUは歴史的改革の時点で、補助金付輸出が実績を挙げて、すでに巨大輸出国としての地位を固め、販売市場を確保していたことである。ビジネスの視点でとらえると、補助金を使ってでもまず輸出実績を作るのが効果的だが、ウルグアイ・ラウンド協定で実績のある米欧以外の新規輸出補助金使用は禁止されてしまった。さらにドーハ・ラウンド交渉では全廃の方向がほぼ決まっている。

 従って日本はスクラッチで国際競争に挑まねばならない。しかし、幸い国際市場価格は大幅に上昇し、内外価格差が縮小している。米国農務省は2020年に掛けて価格水準が、現在の水準から平均で20%程度下落すると予想しているが、08年以前の市場水準と比較すれば、相当高水準の価格が維持される予想である。マクロ的には輸出振興に追い風である。

極端に少ない日本の農産物輸出

 日本政府は現在、農産物輸出目標を1兆円に設定し、減退する国内需要に代わって、成長する海外市場に目を向けた政策に、基軸をシフトしようとしているようだ。


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