ヒットメーカーの舞台裏

2012年5月15日

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池原照雄 (いけはら・てるお)

ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

 袋入りの即席ラーメンでは革新的ともいえる麺の製法を開発した。2011年11月に発売し、3カ月の売上げが42億円(小売ベース)に達したため、初年度100億円の計画を200億円に上方修正した。業界では100億円を超えると大ヒットの部類に入るそうだが、はるかに凌ぐペースとなった。品薄の地域もあり、2月には生産ラインの増設にも乗り出した。

革新的な製法で大ヒット 「マルちゃん正麺」

 味は「醤油」「味噌」「豚骨」の3種類があり、麺の太さは中太、太、細と、それぞれの味に合いやすいサイズにした。麺に応じて調理時間は2~4分を推奨している。希望小売価格は5食パックで525円と、通常の袋入り麺と同じに設定した。

 袋入りの即席ラーメンは、フライ麺とノンフライ麺、さらに素麺のように棒状に乾燥させた生麺に大別できる。フライとノンフライは、生麺の状態から蒸し上げるまでは一緒。その後、油で揚げて短時間で乾燥させたのがフライであり、ノンフライの方は蒸した後に時間をかけて乾燥させる。

 「マルちゃん正麺」(以下、正麺)は蒸しの工程がなく、生麺をほぐして円形にかたどって乾燥させている。一見、フライ麺のようにも見えるが、生麺であり、乾燥させることで即席袋麺の必須条件である長期間の保存を可能にした。「生麺うまいまま製法」として特許を出願している。

 ちなみに、通常の角形でなく円形にしたのは、直径14センチ程の小さな片手鍋にも収まるようにしたもので、スープ味に応じて麺の太さを変えたように、ここにも開発陣の細かい配慮がうかがえる。

 さて、問題の味。打ち立ての生麺とまではいかないが、ツルツル感とシコシコ感はこれまでの即席袋麺にはない境地を拓いたとの印象だ。フライ麺に残る独特のオイル臭はない。一方でノンフライ麺では欠けやすい、もっちりした食感はある。また、棒状の乾燥麺は伸びやすいのが難点だが、その点でも上回っている。以上が、少年時代に登場したインスタントラーメンとともに育った筆者の感想である。

試作品を食べて思わず
「これ、本当に袋麺か?」

 正麺の商品化に当たっては、東洋水産では異例となる全社横断的なプロジェクトチームが組織化された。即席麺本部・商品開発部部長の中山清志(52歳)は、その一員として味づくりやセールスプロモートなどに取り組んだ。

 中山が初めて正麺の試作品を食したのは、現職に就いて間もない09年の夏だった。「これ、本当に袋麺か?」という強烈な印象だったという。同社が即席麺で「二つとないものを創出しよう」(中山)と、着手した背景には、袋麺の長期低迷があった。業界で1958(昭和33)年に発売された即席袋麺は急成長の後、71年のカップ麺の登場で転機を迎える。

 袋麺は72年にピークとなる37億食を記録したものの、その後はほぼ一貫して右肩下がりを描き、最近では17億食を割り込んでいる。勢い、価格競争にも陥りやすく、スーパーでは頻繁に客寄せの特価商品にもなる。東洋水産は袋麺では地域ごとに売り分けている商品が多く、業界トップの「サッポロ一番」(サンヨー食品)のように全国を一気通貫する商品が不在という事情もあった。

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