2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年5月15日

 たとえば中国社会科学院金融実験室の劉輝主任は「大企業による借り入れの意欲は明らかに減退している」と分析し、国内大手証券会社の国泰君安社固定収益部研究主管の周文淵氏は「新規融資総額の減少はわが国の企業全体における資金需要が弱まっていることの現れだ」との見解を披露している。

 あるいは中国農業銀行の「マクロ経済高級分析師」である袁江氏は上述の預金準備率引き下げの発表を受け、「今、企業の経営環境が良くないから、(企業の)融資に対する需要自体は不足している。したがって、預金準備率が引き下げられたとしても、それが実体経済に何らかの良い影響を与えるとは限らない」と指摘しているのである。まさに正鵠を射た見方であろう。

 とにかく今、借り手としての企業はそもそも銀行から大量の融資を受け入れる意欲がないから、政府がいくら金融緩和をやろうとしてもたいした意味もない、ということになっているのである。

借りないのはなぜ? ある銀行幹部の告白

 どうしてそうなったか。「企業が金を借りたくない」という現象の背後には、一体何があるのだろうか。 

 その答えは、「中国証券報」という国内経済専門紙が3月2日付で掲載した記事にある。実は今年の2月当たりから、銀行の新規融資総額の減少傾向はすでに鮮明となっていた。その原因について、記事は「国内大手銀行幹部」の話を引用して、次のような分析を行っているのである。

 「貸し出しに対する企業の需要は確実に減っている。銀行に融資枠が十分にあっても借り手がないから貸し出せない状況となっている。その原因は2つあろう。1つは固定資産投資が減少する傾向にあることであり、もう一つは欧米経済の低迷で中国の対外輸出が減り、多くの輸出関連企業が生産規模の縮小を図っていることである」

 つまり、投資と輸出が減少している中で、一般企業の投資資金に対する需要の低減と、輸出関連企業の稼働資金に対する需要の低減の両方が原因となって、「企業が銀行からお金を借りようとしない」現象を生んでしまった、という分析である。それは至って正しい分析であると思う。 

 たとえば今年に入ってからの中国の固定資産投資の状況を見てみると、国家統計局が5月11日に発表した数字では、1~4月の固定資産投資(農村部除く、設備投資や建設投資の合計)は前年同期比20.2%増となっているが、2003年以来、10年ぶりの最低水準であるという。この10年間、中国経済全体はずっと、25%以上の固定資産投資の「驚異的な」伸び率を維持してきた。しかし、今年に入ると、それが大幅に下落したことで、企業の投資資金に対する需要が減り、結果的に銀行の貸し出しに対する企業の需要も大幅に減った、ということである。

不動産開発の新規投資は5割減

 その中で、投資資金に対する需要がもっとも激しく落ちたのは不動産開発業界である。

 4月26日付の「新京報」の掲載記事によると、中国人民銀行は25日、今年第1四半期の各金融機関の行った新規融資の詳細を発表しているが、そのうち、不動産開発に対する新規融資の総額は2427億元で、前年同期と比べれば実に5割も減少したという。

 つまり、全国の不動産バブルが崩壊しかけている現在、開発業者たちの不動産投資が急速に減少した結果、不動産開発向けの銀行融資も激減した、というわけである。


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