World Energy Watch

2012年5月21日

»著者プロフィール

 しかし、発電コストの基本に関わる燃料を高く購入していると邪推するのは、現場で燃料購入に携わっている多くの人たちを愚弄することになる。20年間海外からの石炭の輸入と価格交渉に携わり、電力会社に石炭を売っていた現場を知る筆者としては、「総括原価主義でコストを気にせず電力会社が燃料購入を行っている」などという主張は、少なくとも海外炭については「全くの空事。嘘もいい加減にしろ」と言わざるをえない。

1セントに拘る電力会社

 製鉄会社、電力会社は大量の石炭をオーストラリア、インドネシアなどから輸入している。輸入のために商社を間に立て、輸入実務を任せる一方、価格交渉の仲介も行わせるのが普通だった。「電力会社は総括原価主義なので言い値で購入してくれる」などということは当然なく、価格交渉は純民間の製鉄会社と同じく厳しいものだった。

 引き取り数量は数年以上の長期契約で決められるが、価格は年度毎に決められるのが海外炭の通常の契約だ。毎年度の価格は前年度末までに合意されると契約上はなっているが、実際には少しでも安く買いたい電力会社と、少しでも高く売りたい海外サプライヤーとの間で交渉は紛糾し、新年度になっても数カ月間価格が決まらないのが毎年のことだった。守秘義務があるので詳しくは書けないが、価格が9月末までに合意しないと事態が複雑になる契約が多かった。

紛糾、長期化する交渉 

 交渉は熾烈を極めた。間に入って合意点を見出そうとする商社も大変だった。

 ある年、広島の中国電力と海外サプライヤーとの交渉が長期化し、合意点がなかなか見出せなかった。話をまとめるべく8月の上旬に広島に出張し、電力会社を相手に粘ったが、どうしても数セントの差が詰まらない。最終便も近くなったので帰ろうとすると、担当の課長から「当然、今日は泊りですよね。この状態で帰れないですよね」と言われた。

 8月5日のことだ。翌日は原爆記念日で広島市内のホテル、旅館は既に満杯。ありとあらゆるコネを利用し、何とかホテルを予約できた時はほっとした。9月末の期限を意識した電力会社がいかに真剣に交渉を行っていたかの例だ。期限が近づいても電力会社は、容易に妥協はしなかった。

 名古屋の中部電力と交渉を行っていた時のことだ。やはり交渉が紛糾し夏を迎えていた。私は四国に出張し泊まっていたが、翌朝、東京に来ていたサプライヤーと電話したところ、妥協する姿勢が見えた。電力会社に電話したところ、「直ぐに交渉しよう」との回答だった。サプライヤーと名古屋で落ち合い電力会社に行ったが、急なことで会議室がない。暑いロビーの片隅で交渉し、合意したのは記憶に残る交渉だ。交渉の席上、「国際競争を行っている他国の電力会社向けの価格より高い価格は受けられない」との発言が電力会社よりあったと記憶している。

 1セントでも安く買いたい電力会社は、どの会社も価格交渉には非常に真剣で厳しい姿勢だった。交渉に携わっていて「総括原価主義」ということを意識させられたことは一度たりともない。原発事故以降、現場を知らずに「総括原価主義で高いものを買っている」と、いい加減な発言をする人がいるのは嘆かわしいことだ。

電力会社は「高い」天然ガスを購入しているのか

 冒頭のように、報道ステーションでは、私の知る限り数度シェールガスを取り上げているが、いつも、「日本の電力会社が購入している天然ガス価格は、シェールガスの生産により価格が大きく下落した米国のガス価格よりはるかに高い」と解説している。電力会社の燃料代は総括原価主義でコストが保証されているので、高いガスを購入していると視聴者は思うだろう。

 電力会社の購入するガス価格が米国の価格より高いのには理由がある。

関連記事

新着記事

»もっと見る