WEDGE REPORT

2012年5月23日

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2012年3月11日までの推定積算線量の分布図 (出所:文部科学省)
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 この線引きが栃木県の住民団体の怒りを買った格好だ。しかも、福島県内の市町村に対しては、空間線量で線引きしない、県作成の別の実施要領が適用されている。いわばダブルスタンダードであり、那須塩原の市民団体からは「県境で差別」と厳しい批判の声があがっている。

 年間5mSvをめぐる迷走の発端は9月にさかのぼる。環境省は28日、県内42市町村の除染担当者を集め説明会を開いた。環境省の森谷賢・除染チーム長らは、年間5mSv未満の地域は、雨風などにより自然に許容量の1mSvに減っていくだろうという見通しを示し、線引きへの理解を求めた。

 ところが、この説明に不満が噴出。翌日の地元紙も「年間5mSv未満の地域については除染は必要なく、政府が支援しないとの意向を環境省が伝えた」などと報道。福島県市長会のメンバーらが、政府の現地対策本部長を務める財務省の吉田泉政務官を訪れ抗議するなど一気に政治問題化した。

 こうしたなか、地元の意向に沿うように軌道修正を図ったのが、9月2日に就任したばかりの細野豪志環境大臣だった。29日には、「市町村が適切と思う形でやっていただき、なるべく要望に沿う形で予算を執行していきたい」と発言。さらに10月2日に福島県の佐藤雄平知事と県庁で会談をした際に年間5mSv未満の地域でも「最大限財政負担する」との考えを示した。

IAEA報告書
「過剰に慎重な対応を回避」

 この発言が、線引きのない県内限定の実施要領につながっていった。しかし環境省内部にも予算の膨張に懸念を示す声は多く、県外については線引きを行ったのだろうが、スタンドプレーに走る政治家も、それを制御できずに迷走し結局ダブルスタンダードに陥る官僚もあまりにお粗末ではないか。

 昨年10月に12人の専門家による調査団を福島県に派遣した国際原子力機関(IAEA)は、細野大臣への調査報告書のなかでこう記述している。

 「日本の当局は、被ばく量の低減に効果的に寄与し得ない、過剰に慎重な対応を回避することが奨励される」

 既に除染予算は1兆円を超え、中間貯蔵施設の建設を含めると4兆円規模にのぼるとの指摘もある。費用対効果を無視して除染を拡大すればもっと膨らむだろう。高圧洗浄など効果の低い手法はやめ、比較的線量の低い地域では、福島県内外問わず、ホットスポットの除去など限定的な除染にとどめるよう、環境省は補助金要領や除染ガイドラインを改訂すべきだ。

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