2024年4月19日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2012年5月25日

 思考実験の前提と基本原則として、(1)「打ち出の小槌」はない。(2)第三次世界大戦は起こらない。(3)隠れた魔物はいない。(4)モデルが信用できる。という4つのルールを定めてもいる。したがって、「ノストラダムスの大予言」や「ブレードランナー」のファンは、保守的過ぎるとがっかりするかもしれないが、日本人にとっては戦慄するような予測もある。

世界の中心は「ニュー・ノース」へ

 2050年の世界を予測するとき、中心となるのは「ニュー・ノース」である。著者の定義では、アメリカ、カナダ、アイスランド、グリーンランド(デンマーク)、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアの8カ国が現在領有する、北緯45度以北のすべての陸地と海を指す。

 NORC諸国またはNORCs(Northern Rim Countries)と新たに名づけられたこれら8カ国は、北極海をほぼ一周する新たな「環北極圏(ノーザン・リム)」を構成する。

 2050年。環北極圏では、現在よりも人間活動が増え、戦略的価値が上がり、経済的重要性が増す。そんな未来像が導き出されている。

 その根拠となっているのが、人口構造、天然資源の需要、グローバル化、気候変動という4つのグローバルな力からどんな世界が生じるのか、という分析である。それぞれの分析はおおむね的を射ていると思われ、引用されている専門の文献も幅広い。現象を俯瞰する「鳥の眼」にはもってこいである。

先住民の気持ちに寄り添う「虫の眼」

 なおかつ、本書を計算機による予測という味気なさから救っているのは、現場のレポートである。何度となく環北極圏へ足を運び、科学者として現象を観察し、先住民の気持ちにも寄り添おうとする「虫の眼」がある。

 「北半球北部の河川の水文学、氷河・氷床、永久凍土の融解が土壌炭素や湖に及ぼす影響、最先端の探査・観測システムなどを研究している」と著者紹介にはある。なんといっても1967年生まれの著者は、環北極圏の取材中に生涯の伴侶を得るという幸運を手にしている!

 本書の「鳥の眼・虫の眼」の視点が、我が国のエネルギーや社会保障、ひいては“この国のかたち”を議論するのに欠かせないことは、間違いないだろう。

ローレンス・C・スミス(Laurense C. Smith
1976年シカゴ生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の地理学教授。北半球北部の河川の水文学、氷河・氷床、永久凍土の融解が土壌炭素や湖に及ぼす影響、最先端の探査・観測システムなどを研究している。英自然環境研究会議(NERC)、米航空宇宙局(NASA)、米科学財団(NSF)に対して提言を行う。現在、妻とロサンゼルスに暮らしている。

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