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2012年6月21日

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長谷川克之 (はせがわかつゆき)

みずほ総合研究所 調査本部市場調査部長

上智大学法学部卒業後、1988年日本興業銀行(現みずほファイナンシャルグループ)入行。調査部調査役、みずほ総合研究所金融調査部主席研究員を経て現職。共著に『ソブリン・クライシス-欧州発金融危機を読む』(日本経済新聞出版社)など。

 金融市場が決定会合のたびに金融緩和を期待するのは、日銀が事実上のインフレ目標を導入したとの認識がある。デフレが続く限り、日銀は金融緩和を行う筈だという理屈だ。

 2月の金融緩和に際して日銀は「中長期的な物価安定の目途」を導入した。これは日銀として中長期的に持続可能な物価の安定と整合的と判断する物価上昇率とされ、「消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置により、強力に金融緩和を推進していく」姿勢を明確化した。

 ここでミソは、日銀が「物価安定の目途」に「プライス・スタビリティ・ゴール(Price Stability Goal)」という訳語をあて、海外に発信したことだ。日本語の「目途」と英語の「ゴール」の意味合いはかなり違うが、日銀が「ゴール」という訳語を使ったのには理由があった。

 米国の連邦準備制度理事会(FRB)では自らの使命として、最大雇用と物価安定の2つを達成することと位置づけているが、日銀の緩和に先立つ1月25日の連邦公開市場委員会(FOMC)において物価安定の長期的な「ゴール(Goal)」を年率2%と明示したからだ。

 従前より明示的にインフレ目標の枠組みを採用している英国、カナダ、目的(Aim)とするインフレ率の水準を示している欧州中央銀行(ECB)に加えての1月のFRBの動きを受けて、G8諸国で目標とするインフレ率を示していないのは日本だけになった。インフレ目標の採用を声高に迫る国内政治の動きも手伝い、日銀としての苦肉の策が「物価安定の目途」の採用だったのだ。

 日銀はそれまでインフレ目標の採用を頑なに拒んでいたことから、2月の政策決定は市場にとってサプライズであり、とりわけ、海外投資家の間では日銀がインフレ目標導入に踏み切ったとの認識が広がり、前述したような市場の反応に繋がった。

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